修理が出来ない物  

 防蝕の通常の主目的は、“施設維持コストの最小化”です。

その最適手段を考えるのが防蝕設計ですが、“どの方法が良いか“という価値判断を行うには、それを支える“哲学”というか、色々な視点で勘案した損得勘定が要ります。

(例えば時間という視点・・今、目の前の金額を比較するのと、一年後、十年後の時点で比較するのとでは、結果が変ります。目の前の金額の大小は誰でも容易に比較出来ますが、未来のある時点を想定した比較をするには、経験に基く想像力が必要です。その他、修理費、修理工期、間接経費・・等々の別の視点で判断すると、また別の損得勘定が見えてきます。) 

ところで、どんな視点で考えるにせよ、一般的に施工コストというのは、50点を80点にするには、大して増えませんが、80を95にするのは大きなコストが掛かり、それを99にするには、さらに大きなコストが掛かり、99を99.9にするには、さらにさらに大きなコストがかかります。
                   だから、普通は、
  “程々の(80点程度の)仕様で施工し、痛んだら修理する。”
                というのが、最も経済的です。
   
       (ただし、“修理が容易で安い”という事が前提です。)
(例えば、腐蝕で運転が止まると膨大な損失が出る、といったケース等のように、)修理が
常に高くつく、と予想される場合には、(多少費用を掛けても、)出来るだけ壊れ難
いようにする方が得策です。


   修理が出来なければ、解決策は大抵“作り替え”か有りません。 

その作り替えは・・(工場の大量生産品は別として)通常、種々の大きな損失をもたらします

 つまり何であれ・・修理を想定して作られていない物件は、“維持管理コスト”嵩みます

(とは言っても、将来、何時頃どういう修理が必要になるか?・・どういう形式にすれば、修理
費が小さくなるのか?
・・等と予測するには、相当量の実務知識と経験が要ります。
だから実際にそれが出来るのは現場叩き上げのベテランだけでしょう⇒ベテランでない設計者の
皆様は、年寄衆に敬意を払わないと、教えて貰えませんよ。)(^^) 
       
ともあれ、 修理に困難が伴う事例”をおしらせしますので、
        “後で高いツケを払わされない”ための参考にして下さい。



    ケース1・・??直す箇所が分らない???
    ・・ンなアホなコトが・・” と一瞬思ったあなたは人生経験が少し足りない・・カモ・・
                             例えば医者!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
   実例オン・パレード
塩ビ板製のタンクが漏れているので樹脂でシールしてくれ、という御依頼。
「何処を止めるんですか?」「分んないんですよ・・」「へ?」「あちこち怪しい箇所      
全部再熔接させたんですけどね・・何回やっても漏れてくるんでギブアップ・・・・」
(私メも分らず、結局全熔接線をエポキシFRPで塗りつぶして修理した)

●「FRPパネル水槽が漏れているので直してほしい。」という御依頼。
パネル水槽のパネルの継ぎ目は全てつながっているので、どういう経路で出口に    
出てくるのかは不明です。(よってこれも内側から全継ぎ目をFRPで塞いで修理)

6万Klの原油タンク底板(の恐らく腐蝕孔)から漏油。
人海戦術も空しく、(広過ぎて)結局腐蝕孔は発見出来ず。
(結局底板全面にFRPライニングをして決着。目的は防蝕だけですか? 参照

シート浮かし貼り工法で防水してある屋上から漏水した・・とSOS。
「シート貼合わせ構造」は、もし貼合わせ不良の箇所があったとしても
(一般的に)その場所を非破壊で確認する方法は在りません
そして、「浮かし貼り構造」は、防水膜の下を水が自由に行き来するので、例え漏      
水の“出口”が分っても、それによって“入り口位置”を推測する事は出来ません。
その理由により、これはそもそも漏水経路が分らない工法”ですから、      
  全面にFRPライニングを被せて修理するしかありませんでした。
 (現在、大多数の屋上はそういうタイプのシート防水をなされていますので、もし、漏水が
 生じた場合は、上記と同じく、-どこを直したら良いのか分らない- という事態になります。)
       直す場所が不明なら、部分修理は出来ません。
    (その結果、)可能性がある全範囲を盲滅法に修理せざるを得なくなります。
   実質的に、全面再施工と同じです。⇒それなりのコストが掛ります。


      ケース2・・??直し方が分らない???
 ●グラスライニングやフッ素樹脂ライニングはいまだに部分修理法が在りません
  それはみんな承知してますから、修理出来なくても波風は立ちませんが・・
 ●普通の樹脂ライニング“修理不能!”なんて言われたら・・そりゃ誰だって意表   
   をつかれます。
  しかし、(表向きはともかく)まともな修理システムを用意していない“工法”はいくら  
  でも 実在 します。
  毎朝全員が、狸の御神体の前に整列して“後は野となれ山となれ!”と三 
  回唱和してから仕事を始める会社もあるとか・・無いとか・・   

  但し、悪意で修理しないのじゃなく、単純に 出来ない という事もあるようです。
  (技術が無いから、儲からないから、そういう視点を持っていないから、やる人が居ないから・・)
   そーですそーです!デタラメやるよりは、“修理はでけん!”とバシッと断る方が良心的!
         ウッレシー! またまた客を作って頂いた!・・ルンルン・・・・・冗談です

冗談はともかく・・通常、補修材料は元の素材や周囲の素材と一体化させないといけませんので、・・“どうやって接着させるか?”・・という問題は常についてまわります。
 「どんな物でも、サンダー掛けで目荒しして、元の材料と同じ物を塗れば元通り一体化する・・」と、多くの方々が信じているようですが、実は・・そうならない素材は無数にあります。 
また、例え通常は“目荒し”で接着出来る素材であっても、長期間の使用で物性が変って、“目荒らし法”が効かなくなる事もあります。 
だから色々な物を色々な状況で修理するには、目荒し以外の色々な接着技法も必要です。

独特のクセがある、“誰にとっても”修理が難しい 素材の例としては、NBRライニング、ポリオレフィンライニング、特殊な成型法のFRPであるSMC等があります。(勿論、他にも無数にあります。)
修理不能、というわけではありませんが・・これらは大抵、メーカー修理出来ません。)

NBRは二トリルゴムの略号ですが、NBRに限らず、一般にこういう高温の長時間加熱加硫が必要な素材は、現場で部分修理するのは困難です。 ポリオレフィン類は大抵どれも、特殊な接着テクニックを使わないと接着出来ません。
SMC
はサーフボードや水上バイクやパネル水槽等身近な大量生産品によく使われるFRPです。 これは型離れを良くする目的で内部離型剤を配合してありますから、普通のやり方で樹脂や接着剤を塗っても、弱い接着力しか発生しません。)

   修理法が用意されていないライニングは、(実質的に)修理不能です。



        ケース3・・手の施しようが無い
●とある食品工場・・数年前某大手建材商社が施工したというエポキシ塗り床が
   “部分的に”剥れているので、“それ”を修理してほしい、との御依頼。
    確かにあちこちパラパラと・・・
    下地処理を始めると、ちょっとディスクが触れただけで、“健全な”箇所まで剥れ  
    てしまう。・・・で、保護のためガムテープで周囲を養生して注意深く修理。
   しかし、終ってガムテープを剥すと・・床材もいっしょにくっついてくる始末。
    これじゃいくら修理したって、またすぐ別の箇所が剥れます。
       (この剥れの原因は“下地処理の省略”でした。プロローグ参照)

     全面に問題を抱えた物は結局全部やり直すしかありません。

  全面的欠陥が出来る原因は、設計ミスか施工の手抜きか、事故か、大抵そのどれかです。
  対策は・・チャンとした設計をし、手抜きし(させ)ない事。(その方法は各自で考えませう)


           ケース4・・手遅れ
●とある化学メーカー・・高温のブラインタンクが“漏れた!”とか。
     何としても、すぐ直してくれー!という悲鳴。
      ・・行ってびっくり。 底板が“無い!” 
   「何でこんなになるまで・・」「塩が固まって塞いでいて気が付かなかっただよ。」   
    「パチ当てしかないでしょ。」「ダメなんだ周囲もボロボロで・・」「作り替えましょ。  
    作り替え!」「時間が無い。隣の会社に納める原料のプラントなんだ、収められ  
    ないとオオゴトになる・・とにかく何とかして三日間もたせて・・二日でいい・・「・・・・・・」
●とある別の化学メーカー・・ノボラックビニルエステルFRP製の混酸ガスレシー     
   バのノズルが折れたので、来たついでに修理してほしいという依頼。

    しかし、本体材質のほうも既にボロボロ状態。(ダメだコリャ)

        全体がスクラップ状態では部分修理は効きません

          対策・・医者を呼ぶなら死ぬ前に・・


       ケース5・・やる業者が見つからない・・
例えばクリーンルーム・・埃、ガスを出さない工法と道具と材料が不可欠です。
 現実問題として他の現場で使った工具は持ち込めません。これにコストと時間の制  
 約が加わると・・やって採算が合うかどうか・・採算が合わなきゃ誰もやらんかも・・
 (その反対に原子力関連施設は、持ち込んだ道具は外に出せない、というブラックホ  
 ールみたいな現場ですが、こちらは発注者がチョー裕福なので、「金で解決する」とい 
 う王道を歩んでいます。それなら大抵心配はいりません。)
●日本の鋳物業者がバタバタと 潰れているそうです。得意先が、中国や韓国にばかり
  発注するからだそうです。工作機メーカーでその輸入物を見せて頂きましたが、出来 
 はいびつで巣だらけ。(その凸凹を直すあるいは誤魔化す耐蝕樹脂パテの開発依頼なので、
 気分は複雑。)
 さて、そこの現場担当者の独り言・・(高級品に必要な精密鋳物は日本の業者しか    
 作れないんだけど、そこもそれだけじゃ食っていけなくて潰れかかっている。会社の重 
 役連中は“安く出来た”、“利益が出た”、ばかりいってるけど、あの業者つぶれたら、こ
 の機種作るったて、もう出来ねんだよな。そうなったらどうするつもりなんだろか。)・・・

        やる業者を探せなければ、修理は出来ません。
 そのときになって慌てないよう、ご町内の信頼できる業者は確保しておきましょう。

    参考にすべき?金言(^^)・・百姓は生かさぬように殺さぬように・・徳川家康?



       ケース6・・作業出来る環境じゃない
  改修工事は時間的、空間的、状況的に、新設より格段に複雑な制約を受けます。  
     それらの制約によって(事実上)施工が不可能になる事があります。
 
 ●例えば自動化されたメッキ工場のラインの床・・人が入る空間が無い!
       目的は防蝕だけですか 参照
 ●例えば超大型水槽の内部の防水の改修・・中の魚の移し場所が無いし、それより何
   より、水を抜くと「水圧で保たれていた定常状態」が崩れて予期せぬトラブルが発生
   する危険性有り。 
   だから水の中で“水を汚さず、魚を驚かせず改修する”というとんでもない施工条件 
   になる。(はたしてそんな手品が、出来るのか?)
 ●例えばマイナス30℃の冷凍倉庫の中・・こんな環境で施工出来る材料など皆無。
      (低温硬化のMMA樹脂なら可能だ!なんてのは、机上の空論です。)
 ●例えば化学プラント等の24時間稼働の生産ライン・・大抵の場合、稼動状態で   
   は直せません。例えラインを止めても、その時間が余りに短いと、同じです。
 
     「修理が出来ない環境」に置かれている施設があります。
   そんな施設は、多少コストをかけても、「壊れないように」しておかないと、
   後で手の打ち様が無くなります。設計時点で良く考えましょう。



      ケース7・・(発注者側から見て)
   誰に頼めばイイのか?どういう修理法がイイのか? 
 記録が残っていれば、多分、同じ材料はメーカーから取り寄せられます。
 しかし、それで修理が出来るかどうかは、別の問題です。
 新規の施工方法と修理の方法は必ずしも同じではないからです。
 例え同じやり方で出来たとしても、それがいいかどうかはまた別です。
 例えばタンクの注入口近辺のみが傷んでいたとしたら、そこを同じ仕様で直すのは問 
 題が有ります。
 一般に、あるやり方で壊れたときは、壊れる理由があるわけですから、基本的に「別の
 方法」で修理すべきです。
 しかし、その修理仕様誰が作るのか?・・・・
 施工した業者でしょうか。別の業者でしょうか。相当に悩ましいところでしょう。そういう 
 ことは結構沢山あります。「すぐこわれるようなライニングを施工した業者に修理を頼ん
 でいいものかどうか?」という躊躇には一面の合理性があります。
 かといって、一般に他人のやった仕事の修理は、誰も喜んではやりません
 何を使って、どんなやり方をしたのか不明な物の修理は、非常にリスキーだからです。
 有料で設計してくれる設計事務所コンサルタントは、現実問題として防蝕は素人で 
 すから、彼らも結局専門業者に相談するしか無く、出てくる仕様の出来不出来はその 
 業者の能力次第、という事になります。 どこに頼むかは一種の賭けでしょう。
                      だから、
 施設管理者が修理方法や相談先で悩むのは、当たり前の事なのかもしれません。

                     解決策は・・・・・?


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