接着とは何か  接着剤とは何か

      分子の運動が止まる状態を、絶対0度(−273℃)といいます。
      (理論上は、それでも、速度の揺らぎがあるそうですが・・)

    そういう状態の分子がエネルギーを得ると、直線運動や回転振動を始めます。
       運動や回転の速度は、外部からは、“温度”という形で検出されます。
            「運動スピードの上昇=温度の上昇」 という関係です。

但し、集合している分子間には、何種類かの引力(=分子間力)が発生し、それによって拘束されるため、集団を離れて飛びまわるには、この拘束力を断ち切るエネルギーが要ります。

分子間に働く力は、(大きい順に、)電気的引力(クーロン力)、水素結合力ファンデルワールスの力です。(万有引力は、小さすぎるので、無視できます。)
クーロン力は距離の2乗、ファンデルワルスの力は7乗に逆比例する力ですから、接近すればする程、急激に増大します。
一方、「二つの物体が同じ場所を占有する事は出来ない」という原理?に基づく、万有斥力があり、これは距離の接近と伴に、爆発的に増大します。
この引力と斥力が合わさる結果、分子のギリギリの近くに分子間力の極大点が出来ます。

さて、私達が住む絶対温度290度程度の世界では、空気分子は、弾丸のスピードで飛び、平均約0.1μm飛んでは仲間との衝突を繰り返しています。
衝突に際し、高速の、(運動エネルギーが大きい、)分子は、この引力の極大点を通過し、斥力にガツンと跳ね返され、再度、極大点を振り切って飛び去ります。
    これが気体の状態です。
速度が小さくなると、(=温度が下がると、)分子間力に捕まり、互に接近した状態の集合を作り、その内部を、動き廻ります。
    これが液体の状態です。
さらに温度が下がると、分子間力によって縛られた“構造”が形成され、個々の分子の自由な動きは、“振動”だけ、という状態になります。
    これが固体の状態です。

つまり、どんな物質も、(温度によって)動こうとする力と、(引力によって)繋ぎ止めようとする力のせめぎあいによって、固体⇒液体⇒気体という“状態変化”をします。
分子間力が小さければ、低い温度で、大きければ、それに見合うだけの高温で、液化や気化をします。


     この引力は、同種異種を問わず、あらゆる物質間に働き、
    “組合せ”によって種類や強さが変わります。        
    例えば、水同士の間に働くのは、水素結合が主ですが、水とイオンの間に働くのは、クーロン力です。

  この分子間引力が、“接着剤と被着体”という異種材料間に働くと、接着と称されます。

 (但し、勿論、これは、接着という複雑な現象の、主要な、一部分でしかありません。
  その他、共有結合やアンカー効果等も接着現象をもたらします。 つまり、“接着”という一般用語は、複数の別々の現象の力学的複合効果を表現したもの・・と言えます。)

   分子間力の補足説明・・
クーロン力というのは、勿論、+と−の電気の引っ張り合いの事です。
非極性の物質でも、電子分布の揺らぎによって、電気的引力は発生するそうです。
ファンデルワールス力は、量子力学的に発生する“近接効果”だそうです。
水素結合と言うのは、OH基やNH基といった極性基の水素が、+に帯電し、近接した分子のOやN等のローンペア電子を引っ張って、両者を結びつけるものです。(これだけは、そういう構造が出来ないと成立しませんが、OHやOやNというのは、身近な物質の表面、例えば鉄、ガラス、石、木材、紙、皮革、部分酸化されたプラスチック等々、に、ありふれています。)

分子間結合の典型例を挙げると、アルゴンやメタンは、ほぼファンデルワルスの力(だけ)、水や氷は、水素結合食塩の結晶は、クーロン力で繋がっています。
メタン(融点−184℃)、水(融点0℃)、食塩(融点800℃)の融点 沸点 潜熱 比熱を比較すれば、それらのおおよその結合力(=結合を切るのに要するエネルギー)が推量出来ます。

       あらゆる分子の間に、こういう分子間力が発生するため、
  (引力の極大点近くまで)接近すれば、(強弱は別にして、)あらゆる物は接着します

つまり、接着現象は、接着剤と被着体(表面)の接近によって急激に増大する(クーロン力、水素結合等の)分子間力によって起ります。

  付け加えますと、被着体は、大抵、固体(の表面)です。
固体の表面は、(液体の表面でも同じですが、)内部の原子や分子のような、仲間に取り囲まれた安定な環境ではないため、エネルギー的な歪を抱えています
     (表面張力といった形で観測される“表面エネルギー”のことです。)
       固体表面では、上述の分子間力に、これがプラスされますので、
   (気体分子のような)孤立した分子よりも大きな力で、相手を引き付けます。

                    そういうことなので、、
      被着体(固体)表面の組成や状態の変化は、分子間力を変化させます。
       意図的にそれを行うのが、「被着体の表面処理」です。 
                  (だから、表面処理によって、接着力は変ります。)

             話は変ります

    以上を踏まえ、もし接着剤が“気体”であったと仮定すると・・

(単独で高速運動をしている状態である)気体分子は、殆んど全ての場合、被着体分子に激突しても、ガツンと撥ね返されて、分子間力の極大点を振り切って飛び去ってしまいます。
(そんなフーテンの寅さんみたいな材料は、接着には適しません。)

           もし、“固体”であったと仮定すると・・

現実の(被着体である)固体の表面は、(どんなに平滑に見えても)分子レベルの尺度で見れば、メチャメチャな凸凹です
 そしてもし、接着剤固体であったなら・・(接点になっているほんの一部以外、)両者が、引力の極大点まで接近する事は、不可能です
      分子を地球に例えれば、引力の極大点は、遥か冥王星の彼方です。
     (ただし、徹底的に平滑にすれば、それだけ多数の分子が接近するので、固体同士でも接着します。)

              つまり、普通の状況では

液体だけが、被着体表面との引力の極大点まで接近し、かつ留まる事が可能です。
         極大点近辺に留まれば、必然的に、結合状態になります。

       しかし、液体は、“外力を支えること”が出来ません。
    “外力を支える力”、つまり耐破壊力を得るには、固化する必要があります。
(固化は、耐破壊力を発生させる行程であり、引力、つまり接着力を発生させる行程ではありません。むしろ、固化による歪の発生によって、引力は減殺されます一般的には、この耐破壊力の事を接着力と称しているため、話が混乱するのですが・・このページでは厳密に使い分ける事にします。

                     まとめ

  接着という現象は、分子間力だけによって生じるものではありませんが、少なくとも、
      液体が、固体表面を濡らせば、必ず、何らかの分子間力が生じます。
  その時点で極大点への接近と、それに伴う “分子間結合” (つまり接着) 完了していると言えます

        次いで、固化する事によって、耐破壊力が生まれます。

             以上を踏まえて、接着剤の定義をすれば、

「接着剤とは・・液体から固体に変化する(全ての)物である。」 接着は・・(液体に)濡れたら、必ず発生する自然現象である。
                   ということになります。
     (粘着剤とは、固体と液体の中間状態を保ち、両方の物性を維持しているもの・・という事になります。)

                  実例で点検してみましょう。
川の石ころは、濡れています。 接着している筈ですが、これをタオルで拭くと、簡単に拭き取れます。  ・・・・液体の状態では、耐破壊力が無いからです。
しかし、そのまま冷凍庫に入れて、凍らせると・・固化した水は、石とタオルを接合します。          ・・・・固化によって、耐破壊力が生まれたからです。
石の表面が凸凹なら、さらに剥れ難くなります。
       ・・・・アンカー効果で、耐破壊力が増すからです。

          つまり、接着というのは、そういう意味では、単純な現象です。

ここで、疑問があります。  石ころに陽があたると、水は乾いて、無くなってしまいます。
           風があたっても、乾きます。 補足説明 参照 )
             ・・・・接着はどうなったのでしょうか?
           風や日光で消し飛ぶようなものなのでしょうか?

 実は、接着は持続しています。乾いたように見えても、水は石の表面に残っています。
         この結合水を除去するためには、分子間結合エネルギーと同等のエネルギーが要ります。
      強い結合状態にある一部の水分子は、二百度や三百度に加熱したくらいでは、石から離れません。
                     ・・・ということは・・・
この石に、例えば、エポキシ接着剤や瞬間接着剤をくっつけたら・・接着剤は、一体、何に接着した事になるのか??  石になのか?  石に結合した水になのか?・・・
水や空気にいろいろな物が混ざっていたら、当然それらも石と結合している可能性があります。
              石自体も、複雑な成分から成り立っています。
 ○○接着剤と言ったって、○○以外の無数の種類の不純物や添加剤が混ざっています。
 そういった事を勘案すると、一体、現実は、何と何と何が、どういう結合をしているのか??
            ???????????????????????
          つまり、接着というのは、そういう意味では、複雑な現象です。

         
         「剥れ」とは何か? どうやって防ぐのか?
            あらゆるモノはいつかは、壊れます。 
          しかし、壊れる原因や形態は千差万別です

分子間力を切る程のが加われば、接着は剥れますが、“剥れ”は、その理由だけで起きるのではありません。
   例えば、被着体や接着剤接着内部で、材料破壊が起っても、“剥れ”になります。
   そのように、接着部とは無関係の部位の破損も、“接着破壊”を発生させます。

       その意味で、“剥れ”は、単なる“接着の解消”ではありません
 接着に接着のメカニズムがあるように、剥れには剥れのメカニズムがあります。

                           両者は異なります。
       だから例えば、「強く接着しているから剥れ難い。」とは言えません。そんな単純な話ではありません。
     例えば、瞬間接着剤でくっつけたガラスや金属は、強く接着していても、お湯の中では、簡単に剥れます。
    水による接着破壊のメカニズムが働くからです。 この剥れを防ぐには、耐水性を向上させないと、いけせん。
      つまり、剥れを防ぐには、剥れを防ぐ機構が必要です。

   つまり、私達が接着剤を使う目的は、普通、接着状態を維持したいからですが、
    それには、この破壊作用に対する対抗手段が要る・・・という事になります。

        ・・と言っても、相手が特定されないと、対抗のしようがありません。

              どんな破壊作用が働くのか?
         ケースバイケースで異なる、というしかありませんが・・
例えば、鋼材を接着した場合、接着界面への水分や酸素の拡散浸透や、それによる(鋼材の)腐蝕反応の進行によっても、接着破壊が起ります。
(こういった化学反応は、色々な化学物質によって、異なる様式で、起ります。鋼材の成分、内部応力、温度等やその分布状態等が、その反応形態を変化させます。)
その他、熱膨張による界面ストレス、熱衝撃、応力そのもの、被着体の変形、接着剤の硬化の進行、アニーリング、乾湿繰り返し、・・・等々、(ケースバイケースで異なる)無数の“破壊要因”が動的かつ継続的に、(接着界面や接着剤や被着体に)作用します。
一方、前項で説明した理由により、現実の微細な接着構造は、防錆油や錆の残留、水分、接着剤の物性や成分、接着環境、硬化温度等の差異や組み合わせ等に応じて、(厳密に言えば、)毎回毎回、そして部分部分で異なるものになっています。
現実には、そういう乱雑な接着構造に対し、上記の化学的、物理的なメカニズムが、変化しながら、複雑に複合して、働き続けるわけです。
              剥れは、その結果として起ります。

    だから、(現実の)接着破壊というのは、その意味では、極度に複雑な現象です。
         
        この破壊作用に抵抗するには、どうすれば良いのか。

               (環境や使用条件を良く考えて、)
      接着劣化のメカニズムが働き難い接着構造にしておく事が大切です。

例えば、接着界面への水の浸入が予測される場合には、防水措置を施したり、酸化反応が予測される場合には、酸化抑制措置を施し、界面応力による破壊が予測される場合には、応力分散措置を施す、といったケースバイケース個別の措置をします。
           ケースバイケースというしかありません。
     (複雑で不規則な対象に、型にはまった“マニュアル”で対処すると、ロクな結果になりません。 )

  だからコレは、どちらかと言えば、(どちらかと言わなくても、)経験技術の世界です。 経験を積むしかありません。

なお、接着作業時に、錆や水や油分や汚れ等の不規則要因を除去する下地処理には、“現象を単純化する”効果があります。    単純化は、不測のトラブルを減らします。
経験が欠けていても、そういった事の積み重ねによって、剥れの確率を減らす事が出来ます。
     ( 下地処理をする目的 壊れ難い接着物の作り方 長持ちする防蝕ライニングの作り方 参照)
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                改めて・・接着とは何か
●大きなスケールで見れば、私達は、万有引力によって、地球に接着されています。
「持ち上げると、足は地球から離れるので、接着しているとは言えない、」という考え方は、接着というものの本質を誤解しています。
接着剤で強固に接着している物体でも、原子レベルで言えば、単に接近しているだけであり、接着剤と被着体の原子同士の距離は、個々の熱エネルギーに応じて、(引力の極大点を中心に)離れたり近付いたりしています。切れたり繋がったりも繰り返されているハズです。
だから、“足が離れるから接着ではない”とは言えません。ピョンピョン飛び上がってもすぐ、元の地面に戻ってしまうのは、固体分子と同じ状態であり、接着された状態と同じです。
地球から完全に剥れるには秒速11.2Km以上の運動速度が必要です。
それは気体の状態と同じです。
それ未満で、秒速7.9Km以上の場合は、地面と付かず離れずの人工衛星状態になりますが、これは液体分子と同じ状態です。

●さて、塩の結晶はNaCl分子のクーロン力による集合と表現する事も出来ますが、実際はNa+とCl−イオンの規則的な集合体ですから、分子と原子の概念の境界は限りなく曖昧です。
だから、「接着の最小単位を分子に限定する必要は無い」と考える事も出来ます。
被着体の最小単位を原子にまで拡張すれば、水分子は酸素原子と水素原子が、共有結合によって接着したもの、と表現する事も可能です。
そうすると、化学結合全般も、接着という概念に内包される事になります。
  (結合エネルギーの大きさから言えば、接着の理想型は共有結合という事になります。)
    
固体表面が気体や液体分子を引き付ける現象は“吸着”と称されますが、これもメカニズムは“分子間力”ですから、“接着”の一形態と言えます。
(この視点で言えば、接着は、“被着体表面、接着剤分子吸着する現象”となります。)
●木材を釘で接合するのは接着か?・・これは普通、接着とは言いませんが、同一のメカニズムは、“アンカー効果”という形で接着でも利用されています。
だから、こういう接合方法との境界も、限りなく曖昧です。
(釘を抜けなくする力である、摩擦現象には分子間力が関っています。だからそういう意味でも、両者の境界は融合しています。)

つまり、接着という言葉は、(どんな言葉でも、事情は同じでしょうが)つきつめてゆく程に外延がぼやけてきます。
        だから結局・・・接着剤でくっつける事を接着と言う
              物がくっついたら、それを接着剤と言う
       というのが、健全な定義かもしれません。頭どつかれそうですが・・

            そして・・接着は普遍的に存在している・・

   “接着”をつきつめた先に有るのは、物質の 複雑な相互作用 の世界です。
例えば、液体に何かが溶けた状態、というのは、当然、各分子は接近しているわけですから、接着作用が働いた結果であると推定されます。
また例えば、我々を含めた生物は、(構造化された)水溶液複合体とも言えます。
当然、水や溶質や細胞や分子やDNA等の間に無数の分子間力が働くハズですから、あらゆる生理作用に、膨大な種類の物質の接着、剥離機構が複雑に関っているハズと推測されます。
どんな機構なのか?(その辺から先に、私ごときノータリンの出る幕はありませんが・・)

                   
                        閑話休題
                       接着に関する誤解
@ しばしば、“接着モデル”として記載される、スプリング等を組み合わせた図は、このHP流   の表現で言えば、接着モデルではなく“耐破壊力モデル”或いは“固化物のレオロジーモデ  ル”です。
  接着剤に弾性をもたせたら、“接着力”が上るとか下がるといった言い方も、この類です。
(そんな要素は、分子間力つまりこのページで言う“接着力”とは、何の関係もありません。)
接着?試験機で計測した数値(=耐破壊力)を“接着力”と表現してしまう悪習慣に混乱の原因があるような気がします。・・実は、このHPでも、しばしば、そういう“一般的意味”で、“接着力”という表現を使っています。 分子間力のような、“真の意味の接着力”と、引っ張り試験機等で計測される、いわゆる接着力”(つまりこのページで言う“耐破壊力”を混同しないよう、ご注意下さい。

A ユーザーに、“AとB(例えばアルミとポリエチレン)を接着させたサンプル”をお見せしたとき  、しばしば、“この接着剤で、A同士、B同士も接着できますか?”という質問を受けます。
  世間に、接着剤に関して、「何か、根源的な“勘違い”が存在している。」と感じます。
  厳密に言えば、 「AとBが接着している。」といった表現は、不正確であり、
  実際は、接着剤が接着し、かつ接着剤接着しているわけです。   
  ですから、その接着剤が、A同士B同士を接着出来る事は、自明です

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