海洋構造物の防蝕 
     粘着工法によるタイダルゾーンとスプラッシュゾーンの防蝕


  干満帯と飛沫帯の鋼材は、干湿繰り返しと豊富な酸素によって、激しく腐蝕します。
     海洋構造物の機能を保全するためには、その部分の防蝕は特に重要です。

この部分の防蝕法として有効なのは、今のところ被覆防蝕だけであり(注1)、長く耐久させるため
(注2)例えば ジンクリッチ塗装+多層上塗り等の複合厚膜塗装・フレークライニング・FRPラ
イニング等の仕様が試行錯誤されています。

これらの施工には、下地処理として、Sa2以上のグレードのサンドブラストが不可欠(注3)という
共通点が有りますが、既設の海洋構造物に対して、それを行うのは、コスト的・技術的に多大な困難
(注4)が伴います。
その為、現場でこれらの施工や修理を行う事は(事実上)出来ない、というのが現状です。

ぺネトシールライニング(注5)はそんな状況を打破する目的で開発された重防蝕仕様です。
湿潤面施工や水中施工が出来るエポキシ樹脂を使った頑丈なFRP防蝕膜と下地鋼材の間に、腐蝕反応抑制機能を持ったゴム状の特殊な粘接着剤ぺネトシール(注6)を介在させている事が特徴です。
従来仕様と同等以上の耐久性があり、(高度なサンドブラストが不要で、施工も修理も容易な為
、)経済性も優れています。


              (注1) 何故被覆防蝕しか無いのか
防食法は大別すると @耐蝕性構造材の使用 A被覆防蝕 B電気防食 C環境
制御 の四っつです。耐海水性金属としては、モネル、ハステロイ、砲金、等の銅系合金やSUS
316L等がありますが、何れも価格的に普通の設備には使えません。
また、電気防蝕は海上では無力であり、環境制御は解放系には適用出来ません。 
ということで、結局鋼とコンクリートで作って、被覆防蝕を行う、というのが唯一現実的な解決策
になります。

             (注2) 何故、ことさら、長期的耐久性が要求されるのか
防蝕工事の改修は新設より遥かにコスト高になりますが、海洋設備は(施工環境が劣悪なため
)その差が極端ですから、どんなにイニシャルコストが低くても短期的に改修を繰り返すのは
めて不経済です。 
つまり、例え価格が多少高くても、メンテナンスフリーを保てる期間が長い方が、或いは改修が容易であれば、)トータルとしての保全コストが小さくなります

    (注3) 従来工法がハイグレードなサンドブラストを必要とする技術的背景

            【海洋構造物の防蝕膜に要求される物性】
    被覆防蝕というのは、対象物に膜を被せて腐食性物質を遮断する防蝕法です。
  海水による鋼材の腐蝕は、塩類が介在して、鉄と水と酸素が反応して起りますので、防蝕
  膜の役目は水と酸素(出来れば両方)の遮断です。
  しかしながら、有機質の膜は何であれ、いくらかの水(やガス)を透過させます。
透過性は膜厚・膜の架橋密度・膜厚方向の温度勾配 で変化しますが、これらのうち膜厚
架橋密度は透過を激減させる普遍的要素である為、スプラッシュゾーンの様に水も酸素も多い
箇所の防蝕膜は、設計上、どうしても厚く頑丈になる必然性があります。  
        頑丈さは、また、波や浮遊物の衝撃に耐えるためにも必要です。

                    【接着の必要性】
  防蝕被覆に浮きや剥がれが発生すると、その間隙に水と酸素が侵入して錆を発生させ、そ
  れが更に剥がれを拡げるという悪循環が始まりますので、接着させる事は絶対不可欠です。

               【接着力を強化する方法 サンドブラスト】
従来の設計思想によれば、厚く頑丈な防蝕被覆が鋼材との接着界面に発生させる大きなストレ
スを支えるには、それに負けない強い接着力が必要であり、強い接着力を実現させるには、
ンドブラストが必要です。
サンドブラストは、黒皮(ミルスケール 海水中自然電位約−0.3V)を鋼(同約−0.6V)の表面か
ら取り除いて、水が浸入した時の電蝕を緩和する他、錆や黒皮のような材破し易い脆弱な介在
物を取り除き、鋼材表面に細かい凹凸をつけてアンカー効果を発生させる事等によって、接着
力を高める働きをします。
だから、膜が厚く頑丈になればなる程、サンドブラストも、より完全に行う必要があります

                 【接着を弱める要因 界面ストレス】
  一般に防蝕膜の線膨張率は鋼材の5倍位ありますので、両者を接着するとその境界(接着
  界面)には、温度変化に応じたストレスがかかります。
  その大きさは、膜の厚さと硬さ(弾性率)に比例しますので、膜が厚く頑丈になればなる程、
  界面ストレスが増大します。
   この界面ストレスは、直接的間接的に、膜を剥がす力として作用し続けます。
例えば、鋼材のような親水性材料の接着界面にストレスがかかると、そこに水が浸入し易くなり
、それによって接着力が低下するという現象が起こります。(つまり、水のあるところで、鋼材との
接着界面にストレスをかけ続けると接着力が徐々に低下してゆきます。)
あるいはまた、被着体(鋼材)表面に赤錆等 脆弱な付着物がある場合は、界面ストレスが、そ
れらを材料破壊させる事があります。(当然、そのエリアは剥れます。)

 数字で表すと、鋼材をSa3にブラストしてエポキシ樹脂やビニルエステル樹脂を接着すると、
 100s/cu以上の接着力が出ます。1u当りに直すと千トンです。
 一方、防蝕膜の重さはせいぜい数s/uなので、膜が重力で転げ落ちるのを防ぐ程度の事
 は(小錦に一円玉がぶつかる様なもので)物の数ではありません・・・・が、それにもかかわらず
 、防蝕膜はしばしば剥がれます。  それは、一円玉を支えられないからではなく、(接着力が
 低下して、)その界面ストレスを支えられなくなるからです

      (注4) 海洋構造物にサンドブラストをする時の障害
                   1:【作業場所の問題】
   サンドブラストには、重くかさばる資材(コンプレッサー サンドボックス ホース 砂)
   が必要であり、このスペースの確保は海上では大変です。これらを設置したバージ船を使
   うと、乗組員を含めたリース料は高額です。

                   2:【作業能率の問題】
   海洋施設は、入り組んだ構造、少ない施工面積、厚く硬い錆等の相乗効果によって、施工
  能率が極端に悪い為、単価が陸上より桁違いに高くなります。

                 3:【波 潮の干満に関わる諸問題】
   潮風やしぶきのかかる状況でSa2以上のブラストを行うことは、戻り錆が生じるため実質的に不
  可能です。 また、タイタルゾーンの下地処理は、大潮のタイミングを狙ったり、大掛かりな作
  業用ケーシングを作ったり、或いはダイバーによる水中施工等によって行いますが、何れに
  しても条件が悪過ぎるので、地上と同じ仕上がりにはなりません。

                     4:【環境対策】
   環境対策が義務付けられている領域では、廃砂の回収や、粉塵飛散防止処置が必要で
   すが、海上でこれを行うには、多大な困難が伴います。

    海上構造物のサンドブラストには、必ず、そういった問題が付帯します。

     (注5)(長い耐用年数を達成するための、もう一つのモデル) 

                  ぺネトシールライニング 
  防蝕被覆の寿命というのは、防蝕機能を果たせない状態になるまでの期間の事であり、
  接着型被覆の場合は実質的に“剥がれるまでの時間”のことです。

     この視点で(注3)の従来型被覆防食のモデルを再点検してみます。
・・耐久性をもたせるために、厚く頑丈な被覆が必要である。その頑丈さが、接着界面のストレ
スを増大させる。それによる剥れを防ぐために、強く接着させる必要が生じ、そのために、
難で金がかかるサンドブラストが不可欠になる。しかし、そうやって完成させた力ずくの接着構造
に押さえ込まれた界面ストレスが、接着を破壊する要因になる。
                     という相互関係でした。

        長期的耐久性を実現出来るもう一つの被覆モデルがあります。

             それが、ペネトシールライニングです。
応力は力と抵抗によって生じるものですから、下図のように、下地とライニングの界面に、流体
の性質を持つ粘着層を介在させ、それによって下地とライニング膜の動きを、柳に風と受け流
せば、界面応力は生じません。
 界面ストレスがなければ・・接着力は膜の重さを支える程度で良く、かつ接着安定性も増します。
              


          (注6)(ペネトシールの性質)・・カタログを参照して下さい)

     この仕様は、同じ状況にある陸上プラントの防蝕にも適します。
腐蝕が進行した化学工場の柱、架台、配管外面、腰壁、側溝、等を、手工具ケレンだけ
で、防蝕ライニング出来ます。
(勿論、新設の鋼構造物にも、サンドブラストした物にも、コンクリートにも適します。)

 上記の説明内容を参考にして頂き、「諸状況を勘案すれば、粘着の方が合理的」、もしくは「粘着で差し支え無い」、と考えられるケースでご利用下さい。

錆の細部への含浸性は有りませんが、ペネトシールの代りに、市販の防錆用ペトロラタムをお使いになっても、ほぼ似たような効果を得られます。
ペネトシールをプライマーとして使い、その上にペトロラタムを塗りつければ、ベターです。


                      トップページに戻る