お勉強(2)防蝕屋のやり方

    防蝕屋は、お勉強(1)に書いた様な手順では設計しません。

長年の職業病で、材料の耐蝕データや環境遮断性、属性、仕様の特性、ケーススタディー等の概略は脳に染み込んでいますので、例えば、塩酸20%常温、という言葉を聞いたら、パブロフの犬みたいに条件反射で、“イソ系ポリエステル・ビス系ポリエステル・ビニルエステル・フラン・エポキシ-芳香族アミン硬化物・ポリオール-MDI硬化物・ゴム・塩ビ・ポリプロピレン・ポリエチレン・ガラス・耐酸セメント”等の材料を使った、いろんな仕様が頭に浮かびます。だから、耐蝕性や環境遮断性をあれこれ考えたり、その資料を調べたりはしません。 

             犬が考えているのは 別のことです
そんな膨大な選択枝の中から、最終的にどれかを選ばなくてはなりませんが、職業ですから、「客にとっても、自分にとってもベストの選択をする必要が有ります。

             “選択”には“根拠”が必要です。

            そのキーワードが状況適合性
実は、被覆防蝕の三要素がどうの 仕様がこうの という議論は全て、 “チャンとした施工が出来ている事”、 という 暗黙の前提 の上に成立っています。
そして、間違いなくチャンとした施工になるためには、材料や仕様が(いろいろな意味で)状況に適合している事が不可欠なのです。

      で・・状況とは何か・・適合とはどういうことか・・
    最終仕様に行き着くまでに 何を考えているのか、開示しましょう

・対象物の形状

被覆法はFRPライニング、シートライニング、コテ仕上げ、スプレーアップ等、各材料に適した工法で行いますが、それらは対象物の形状によって、著しく作業効率が落ちることがあります。
つまり、特定の工法にとって不得手な形状というものがあります。
例えば、凹凸の激しい形状にはシートライニングは向きません。
だから、無理に選べば大変高くつきますし、欠陥も出来易いし、修理にも苦労するのが分かり切っていますので、原則、選定候補から外します。
レジモル等のコテ仕上にも この傾向があります。レジモルは、壁や天井に行う場合は、 甚だしく非効率的になりますから、そんな仕様は避けます。
と、いった具合に形状に対する工法の適合性というものがあります
大きさなどでも、適合性が変化することがありますので、それに最も適した仕様を選ぶ必要があります。

・下地の材質、状態

下地状態に応じて、接着のさせ方や工法の適合性が変ります。

例えば、中性化して強度の落ちているコンクリートに、硬度が高く硬化収縮の大きな、不飽和ポリエステルやビニルエステルのFRPを、厚く直接ライニングするような仕様を組むのは、無謀であり、“界面応力”を支える下地を痛めつけることになるため、すぐ剥がれます
こんな時は、接合界面に大きな応力がかからないよう、応力分散層をライニングしてから硬いものを被せるとか、硬化収縮が小さく、ヤング率が小さいエポキシ樹脂に代えるとか、非接着のルースライニングにもっていくのが、自然な流れになります。
あるいは、下地表面の補強をかねて、ファンデーション#123等を含浸させるのもです。 
(そういった対応をする為に、防食対象の材質や状態の情報は不可欠です。)

グリ石が出て凸凹になっているような下地の場合

このグリ石の間をキチンと埋めるには、コテ塗り工法以外ありません。
スプレー工法などでは、エアホール、塗り残し、ピンホール等塗膜欠陥オンパレード悲惨なことになります。
下地の状態によって、施工法が制約される例です。

下地の水分が抜けにくいところや水漏れが激しい所に、不飽和ポリエステルやビニルエステルを塗ると、水に接する箇所は硬化不良を起しますので
そんな場合は、湿潤面接着型や水中硬化型のエポキシに変えるのが無難です。材齢の若すぎるコンクリートにライニングする場合も同じです。 
この様に、下地の状態で材料が制約されることは、よく有ります。

鉄タンクで、高温の植物油を貯留していた場合は、鉄の結晶粒界に油がしみ込んでいてオイルメタルのようになっていることがあります
こんな場合は油面接着型のプライマーでないとトラブリます。 
これも下地状態で材料が制約される例です。

また、塩類などで腐蝕がひどい場合、サンドブラストをかけてもアッという間に錆が戻ってくるケースがあります。ケレンの対象参照)
こんなケースでは単純な接着プライマーに代え、錆面対応型のプライマーを使う方が、施工管理上、安全です。

・施工作業の安全性

溶剤含有材料や、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、MMA樹脂などの材料は、施工中、構成成分が蒸発し、悪臭が発生します
密閉構造の槽をライニングしたり、周辺に食品がストックされているような所で作業する時は、危険防止や着臭防止の観点から、これらの材料を避け、無溶剤エポキシ樹脂や無溶剤ウレタン樹脂等、ガス発生の無い(無臭)材料を選ぶのが原則です。

・工期の制約

工期が短い場合は、施工スピードが、最優先検討項目になります。
突貫工事でやっと間に合うような仕様を選ぶと、何かチョッと予想外のことがあっただけでお手上げになってしまいますので、少しでも時間的余裕を作るため、硬化の早い材料を選んだり、工期が短くて済む工法を工夫する必要があります。
(当然万一の事態のためのリカバリー策も用意しておく必要があります。)

施工時期 (温度・湿度・結露)

気温は樹脂の粘度と硬化速度を変化させます。
例えば、0度以下になるようなところでは、低温硬化性が悪い樹脂(エポキシ等)での施工はできません。
不飽和ポリエステル、MMAなどの出番になります。
また、結露し易い時期の施工に、水ですぐ硬化不良を起こすような材料を使うのは、トラブルを招待しているようなものです。寿命予測は信用できるか参照)
また高温多湿は、保存性の悪い材料を変質させやすい条件ですから、そういう地域や時期の現場施工に、保存性の悪い材料(ビニルエステル等)で仕様を組むと、施工前に賞味期限切れになる危険性があります。
そういうケースでは防蝕機能だけでなく、保存安定性もキチンとチェックしておかないといけません。この種の判断を誤ると、決定的なトラブルになります。

・周辺環境、立地条件

どんな工法にも騒音、臭気、ホコリの発生、機器を置くスペース等でそれぞれ個別の特徴があります。
その特徴と現場環境を勘案し、適合する工法や材料を選んでおかないと、現場で泣くことになります。

・破損のパターンとその影響

例えば、小麦粉、砂糖等のサイロやタンクを防蝕する場合、剥がれた塗料片が製品に入ったら、製品全量廃棄ということにもなりかねません。
万一の事態を想定し、こんな施設は、剥離が発生しても脱落しない、(コンタミネーション防止)という観点で仕様を組む必要があります。
(それは例えば、フレキシブルFRP PP不織布入り軟質エポキシ等です。)
たとえ、防蝕的には過剰設計であっても、必要不可欠の措置です。

          キリが無いので、このくらいにしておきます。
一見同一の設備、同一の腐蝕条件であっても、ケースバイケースで防蝕屋の設計が変わるのは、こんな周辺状況の差異に細かく対応しているからです。

この辺のことは、設計施行例”や“目的は防蝕だけですか? 施工環境がライニングの設計施工に与える影響 修理不能な物 を見ていただければ、もう少しイメージがハッキリするかも知れません。
なを、その他色々のファジーな検討項目あれこれは耐蝕ウレタン含浸コーティングという防蝕仕様の解説の(注)で触れておきました。

仕事として防蝕設計をする場合、私達は現場を見たり、いろんな関係者の話を聞いたりして、薬液の種類・濃度・温度という、基本三点セットの情報以外に、)この項の見出しのような周辺情報を出来るだけたくさん集めるように努めていますが、それは、そういう情報に基いて、上述のようないろいろな意味で最も安全性が高く、コストパフォーマンスが良い仕様を考えるためです。

   ・・状況適合性の検討・・というのはアバウトそういった作業です 


 

 

                  まとめ

机上の実験で、その腐蝕環境に耐えれば良い
、というだけの事であれば、 そんな防蝕材料は無数に有り、仕様も無数に作れます。 

しかし、何であれ、それは長く耐用する必要があり、その為には、現実に出来上がったものが、耐食性、環境遮断性、接着安定性の三つを、必要な水準で揃えている事が不可欠です。
そして、それらは、キチンとした施工を通してのみ達成されます。
キチンと施工されるためには、“材料と施工法が、現場に適合している事”が重要です。

  
そういう視点で材料や仕様を選択しないと、失敗の確率が増します。
(防蝕ライニングの寿命予測は信用できるか?  どういうやり方をすれば、ライニングが長持ちするのか?参照

また、 材料や仕様の短所を顕在化させないように工夫するだけでなく、隠れた長所を利用する・・という視点も大切です。

最終的には、コストや耐久性その他に関る“曖昧かつ重要な、しばしば矛盾する”諸要求を調整しないといけません。
   それ故・・設計の根拠には、必ず曖昧な部分が残ります・・が・・それでも・・
          処方箋の出来不出来は、
       現実の経済性と耐久性を左右します。

 (・・といっても、防蝕屋が最も悩み苦労して作る、その“処方箋”に金を払ってくれる客は皆無ですが・・

                    余談ですが

お宅の工法名と特徴と材料を教えて下さい、その資料も下さい”というお問合せを何度か頂きましたが、私達は上記のように、(状況に合わせて、)常にやり方を変えますので、全体を表現する工法名はありません。材料もその都度変ります
 (強いて言えばジネン流カメレオン工法ですが、怒りだす人も居そうなので言わないことにしています。)

                さらに無遠慮に露骨に言えば

公共工事では、同一の仕事にゼネコンが群がって、仕事の奪い合いをしています。
(彼らは大抵、防蝕に関しては素人同然ですが)・・営業マンは客に、自社しか出来ない高度な防蝕技術です・・という形で売り込みたいため・・そして現実問題として、多様な施工技術持っていないため・・“○○工法”(^^)というネーミングで長所だけを振回します。
工法の諸々の短所は考慮されず、“状況の差異に対処する”という考え方は有りません。
 
これは、謂わば、診察する前に、或いは診察せずに、薬の処方や手術法を決めておくやり方ですから、特に、改修工事のように、状況が千差万別な現場では、トラブルが続出します。
“馬鹿の一つ覚え工法” の方が適切な呼称かもしれません・・ゼネコンさん怒らないでね(^^)

               不合理なので私達はやりません。

                 (ソテックの防蝕設計、参照)

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