防蝕設計イロハのイ

         防蝕法には、次の四つしかありません。

   環境制御  耐蝕性構造材の使用  被覆防蝕  “ほったらかし” 

           

                 【環境制御】とは、
腐蝕反応機構や過程に着目し、それに介入して、その進行を止める方法です。

例えば、(鋼材の一般腐蝕は水と酸素が協力して生じる・・という点に着目し、)ボイラー水の溶存酸素を除去して、内部の腐蝕を抑える、といった方法や、酸性廃液を貯める槽の中に石灰岩を詰め込んで、中和して腐蝕性を無くす、といった手法です。

また例えば、金属の場合、電解質溶液に接触した表面には、自然電位と称される電位が発生しますが、その大きさは、金属の組成、接触する化学物質の種類や、濃度や、温度、金属に掛る応力等の差異によって変ります。
その理由によって、(微視的に見れば、そういう要素はどこも均一ではないので、金属表面には、無数のミクロな電池が形成されます。そこに電流が流れ、電位が高い部分(陽極部)から金属がイオンになって溶け出す、という形式で腐蝕が進行します。
・・が、このとき、(適当な電圧をかけて)金属に強制的に電子を注入し、その電解質液の適当な位置に設置した電極にマイナスイオンが流れ込むように細工をしてやれば、金属の溶出(つまり腐蝕反応)は阻止出来ます。
(平たく言えば(^^)、防蝕対象金属に負電極を繋ぎ、周辺に配置した導電板に正極を繋ぐ・・というだけのことです。 周辺に亜鉛電極(犠牲陽極)を配置し、電線で対象鋼材と繋いでも同じ状態が作れます。
この方法は電気防蝕と称されますが、これも、広い意味の環境制御です。

そんなマニアックな方法でなくても、例えば、床に接して水に浸かりやすい柱を、礎石の上に持ち上げれば、根元の腐蝕を緩和出来ます。
(これは日本の木造住宅では、大抵実行されています。 古い家で確認してみて下さい。)
腐蝕され易い埋設配管を、
地上配管に作り直したり、歩行用縞鋼鈑の要所々々に穴を開けて、水溜りが出来ないようにするのも、顕著な防蝕効果があります。調理場の床に、キチンと水勾配をつければ、傷み方は大幅に改善されます。 それらもまた、環境制御です。

        【耐蝕性構造材の使用】とは・・
構造材というのは、鉄やコンクリートや石や煉瓦や木材のように、構造物の骨格になる素材の事です。強度価格が主たる選択理由です。
“耐蝕構造材の使用”とは、(素材コストの上昇には目をつぶり、)ステンレスや木材やFRPのような、その環境で腐蝕しない素材で、装置や施設を作る事です。
材料のケースヒストリーや耐蝕性ハンドブック等のデータを検索して、適した物を探します。
素材の変更によって、必然的に、強度や外観や表面物性や建設コスト、維持管理方法と、そのコスト、等も変ります。 

             【被覆防蝕】とは、
塗装や樹脂ライニング鉛ライニング耐酸煉瓦ライニンググラスライニング等のように、構造材の表面に、そういった耐蝕材料を被せる防蝕法です。
「どんな素材を?」 「どんな厚さで?」 「どんな内部構造(断面構造)で?」 被覆
するか・・という、少なくとも三つの自由度があるので、その組み合わせは膨大な数
になります。 つまり、無数の仕様が考えられます。
(ちなみに本HPは、“被覆防蝕”の主要部“樹脂ライニング”を中心テーマにしています。)
設計においては、個別の表面機能等の様々な付帯機能を含め、各仕様の長所短所を色々な視点で勘案しながら仕様を選択します。
         「言うは易く行うは難し」という部分です。 

(チャンと設計するためには、防蝕全般に関するある程度つっこんだ実務知識が必要です。)
防蝕設計技術とは、結局、防蝕仕様選択技術のことであり、設計能力とは、仕様選定能力 の事だと言えます。 個々の施工技術というのは、また別のテーマです。

                はみ出し者・・【腐蝕抑制剤】
金属表面に吸着される事によって、腐蝕反応を抑制する物質が多数あります。
(そういう物質を利用すると、“被覆”とも“環境制御”とも言えるような防蝕法が出来ます。)

気化性の物なら、通気性のある袋にいれたり、紙に滲みこませて金属の近くに置いておけば、腐蝕は緩和されます。
防錆紙、気化性防錆剤等という形で、電気製品や機械パーツ等の保存防錆に使われます。
水溶性の物なら、水に混ぜておけば、水中の金属表面に吸着され、腐蝕は減ります。
車のラジェータ、酸洗液、切削水等に添加されます。
油溶性の物を、油に混ぜておけば、やはり腐蝕し難くなります。
防錆油、防錆グリース、防錆用ペトロラタム、切削油等に添加されています。

          【ほったらかし】とは、
    文字通り、何も、特別な防蝕措置はしない、という方法?です。
何もしなくても、「不都合が発生するまでの時間」が、「実用上十分の長さであれば」、何もする必要はありません。


     【“仕様を複合させる”という考え方】
                 【助太刀複合】

別々のカテゴリーに属する方法の併用が、良い結果をもたらす事があります。

       
 【例えば・・】  鉄に金メッキをするのは、単純な被覆防蝕ですが、亜鉛メッキをした場合は、電気防蝕効果が加わり、局部腐蝕を阻止する機能が高まります。
        これはつまり、被覆防蝕環境制御の複合です。

塗装をしておいて、かつ、電気防蝕をかけると、同様の複合効果が生じます。
つまり、膜が傷ついた場合の防蝕バックアップが期待でき、かつ、(塗装無しと比べて)防蝕電流節約出来る、というメリットがあります。 
    (但し、状況によっては、逆にトラブルを招く事もあります。)
 亜鉛メッキをしておいて、その上に塗装を被せるというのも、発想は同じです。
 ジンクリッチペイントの上に一般塗装を被せるというのも、またしかり。

強烈な酸化性を持つ98%硫酸がこぼれるタンクヤードの防蝕は工夫が要ります。
大昔は、コンクリートで構造を作って、硫黄や鉛のライニングをやっていたようですが、もう出来る業者は絶滅したでしょう。
勿論、鉄やステンレスなら、(不動態化するので)裸でOKです・・が・・低濃度になった場合や、日常の環境条件で腐蝕する可能性は有るので、状況によっては、塗装等を複合させる安全策が必要です。
他に、特殊な耐濃硫酸樹脂でやる方法はありますが、多少高価です。
それ以外に、ヤードを水槽にして、普通のビニルエステルFRPでライニングして、希釈用の水を入れておく、という手法もあります。
念のため、石灰岩等の中和剤を入れておきます。
  (大量にこぼれた時に発生する希釈熱や中和熱への注意は必要です。)
       これも、防蝕被覆と環境制御の複合です。

また例えば、清水のパイプラインをステンレスで作れば、内面をメンテナンスフリーに出来るので、長期的には安上がりになると思われますが、これが、海の近くや工業地帯にある場合は、外面からの腐蝕でスクラップ化しますので、本当に長持ちさせるには、外面塗装が必要です
  (ステンレスに塗装をすれば、鋼材にそうするより、長持ちします。)
      これは、耐蝕構造材防蝕被覆を組み合わせるやり方です

 このように、防蝕法を併用すると、互いの弱点補完できる事があります。

・・想像力を働かせて・・将来起り得る腐蝕形態を予測し、それを防ぐ最もコストパフォーマンスが良い方法を考えて、施工しておく事が、設備を安く長持ちさせるコツです。

箇所によって、やり方を変えるという考え方】
                 【気配り複合】

   部分部分で施工法や仕様を変える」ことは、被覆防蝕の基本です。


    実際の施設や装置は、ほとんどの場合、部分的な腐蝕スクラップ化しています
    或いは、部分的腐蝕のために、頻繁に補修工事が繰り返されています。
                     それはつまり、
 細部にまで目が行き届いた防蝕行われていないからです。

例えば「柱」・・しばしば「油性塗料を3回塗りなさい」といった全面均一施工の仕様が作られます・・が・・しかし・・その後どうなるか、と言えば・・大抵根元が腐って、塗り替えや取替えになります。
        根元は、他の部分より過酷な腐蝕環境に晒されているからです。

   柱にH鋼を使った場合は、角の部分だけに錆が発生するのが普通です。
それは、鋭角になった部分には、必ず、膜厚が薄くなったり、ピンホールが出来たりするメカニズムが働くからです。

                この例のように・・細かく見れば、
 どんな施設でも、その全体が均一な腐蝕環境に晒される事は有りません。
 どんな防蝕法でも、その全体が均一な性能を持つ事は有りません。

だから、全体を均一に防蝕するにはそういった特異な部分、“それなりの”別の仕様を適用する必要が有ります。


例えば、上記の例では、柱の根元だけFRPやペトロラタム系防蝕テープを巻いたり、H鋼の鋭角部をグラインダーで丸く削っておき、そこだけ数回塗り増しすれば、問題は解決します。
例えば、構造クラックを有する施設に均一に樹脂ライニングしたら、当該部で必ず “共割れ”しますが、当該部を耐クラック仕様にすれば、それを避けられます。
例えば、高温の液体の注入口近辺や、中和剤投入口近辺は、熱衝撃や水蒸気拡散への対策を講じた仕様にしておけば、“そこだけ剥れる”現象を阻止出来ます。

例えば樹脂ライニングの施工に多大な困難が伴うような複雑な構造の物をそのままライニングすると、高コストと低信頼性が両立してしまいますが、そういう場合、設計デザインを変更して、細かい部分や入り組んだ部分は切り離して耐蝕性構造材でパーツ化し、本体の防蝕ライニングが終った後で、「組み付ける」という方式にすれば、低コストで高信頼性になる事があります。
「両者の接合」は、耐蝕性接着剤か、適当なSUSやFRP製ボルトナット等でやります。)


                以上が、防蝕設計の総論です。


  Q        各論は、どうやって決めるのか?
  A 原理的に、防蝕設計の汎用マニュアルは作れません
   
  各自、その場その場で、知識と経験に応じた設計をするしかありません。
    どう頑張っても、所詮、知識と経験に応じた設計しか出来ません。
          それでもいいんです。 そのうち、腕が上ります。

防蝕は、永遠に壊れないようにする方法ではなく、例えば、ほっとけば1年で壊れる物を、5年もたせるか、20年もたせるか、あるいは・・もっと・・(或いはもっと安く)・・という技術です。
                   つまり、誰がやっても、
   出来上った物は、(持つか持たないか・・という、)白黒ではなく、常に灰色です。

     どんな灰色でも、黒と比べれば白です。 白と比べれば黒です。


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