論理的“防蝕マニュアル”は何故作れないのか

            何でもマニュアル化可能・・・という幻想

某大造船会社・・防蝕仕様選定マニュアルを作り、誰でも、機械的に、最適の防蝕仕様が選べるようにしたい・・ということで・・その基礎資料収集のため・・とかで・・弊社製品の販売窓口の会社に「製品説明に来なさい!」・・と・・お座敷がかかりました。
で、そこの営業マンの要請に応え、私もノコノコとついていきました・・

             ・・冒頭からいきなり
    「どれが一番性能が良いんですか?」 というナンセンスなご質問・・
どうやら、材料の番付表を作っておいて、一番厳しい所には横綱、普通の箇所は平幕、どうでもイイ箇所は幕下というやり方を考えているようです。「どれが良いかは現場の状況で変るんで、それ抜きで、性能に順番なんかはつけられませんよ。」「それに、防蝕性能そのものも、厚さを変えれば変りますし、プライマーとの組み合わせを変えても全体性能が変りますしね。」・・という説明をイライラした面持ちで聞いていた担当者は、「いや、そういう細かい話はイイです。要するに、御社の製品では、どれが一番性能が良くて、どれが二番で、どれが三番なのか・・それだけ教えて頂けば、いいんです。」・・・こちらもだんだんイライラしてきて・・「イや、だからですね、そういう順番はつけられないんです・・・。」 
双方 「何て飲み込みの悪いバカヤロなんだ!」と思っているのが態度に表れるもので、窓口会社の営業マンがソワソワし始め・・ピント外れの取り成しをするもんだから、事態は着々と悪化・・・

   薬局に行って、「この店で一番いい薬をくれ!」って言うようなもんなんですけどね・・
   何の病気でどんな症状なんですか? 
   「いいんだ!そんな細かい事は!どれだ!一番効くのは!さっさと出せ!」
   じゃあ、この特急下剤でも買っていって下さい。効きまっせ、これは。すぐピーピーに・・

          そんな会話をしているような気分でした。

使用環境、施工環境、構造、メンテナンスシステム等々の差異を細かく設定して、対象物を限定すれば、どの仕様が一番良くて、どれが次か・・ということは、ある程度決められます。   (厳密に言えば、それだけでは決められないのですが・・)
   ただし、それはもはや、マニュアルでは無く、個別の防蝕設計そのものです

       Q  防蝕の、一般的設計マニュアルはつくれるのか?
       A   実は・・作れません。    何故か?

 防蝕設計の哲学的論理学的経済学的社会学的動物学的数学的農学的金額的考察・・


  どの防蝕法も相応の費用が掛り、そして、いつかは壊れます。
  どんな壊れ方をするか?・・・アバウトですが、経験的に予想はつきます。
  どういう修理が出来るか?・どのくらいのコストや工期なのか?・・それも同様です。
        何時壊れるか?・・・大抵、それが分りません。

プラントの防蝕設計とは、個別の対象の色々な事情を調査し、無数の候補仕様の長所短所、施工上の問題点、メリット、デメリット、経時変化、維持管理や修理の仕方、諸々の付帯事項、イニシャルコスト、といった多少曖昧な事柄を並べて、色々な視点で総合的に勘案し、例えば100万円をかけてエポキシ塗装をするのが得なのか、200万円をかけてフレークライニングをした方が得なのか、あるいは300万円をかけてオールステンレスにした方が得なのか・・それとも・・といった具合に、
        「どの方法が一番得なのか?」・・を判断する作業です

         つまり、端的に言えば損得勘定好みの問題です。


(しばしば、「腐蝕のメカニズムや腐蝕させない技術調べる事と誤解されていますが、それは設計以前のお勉強であって、設計ではありません。)
          
ところで・・損得、正邪、善悪、美醜、好悪等一般に形容詞で表現される判断を“価値判断”というカテゴリーで一括りにしますと、それらはどれも、演繹的には導けません

例えば、「皆、わが国の牛を食べるべきだ」 とわが国の農民が理論武装をしたところで、その論理でわが国のを説き伏せる事が出来ないように、猫の正義が鼠の正義と異なるように、犬も蛙も雀も烏も個々の人も、それぞれ個別のハビタットに生きている以上、その価値判断が個別固有のものになるのは必然です。

つまり、(他者にも遍く通じる)“論理” で構築された “普遍的 価値”などというものは有り得ない、ということになり、だから演繹的には導けない、ということになります。要するに、
価値判断とゆーのは、本質的に、(他者にも通じるような)“理屈”じゃない」 という事です。
     (「正義」「刃物」無闇に振り回すな・・と言われる所以です。)

故に・・損得勘定好みである防蝕設計は、普遍的論理では導けない・・証明終り。



                      まとめ
 技術論やデータをいくら集めても、それだけでは技術評論 しか出来ません。
「この対象にはコノ仕様が良い!」と決めるためには、そこに何らかの個別の価値判断が加わる必要があります。

    個別とは、ソレを使う人、作る人、費用を出す人、・・等々のことです。
仕様を(技術的経済的に)考える人は、当然、その方々の価値判断そうしたくても、今、予算が無いんだよなー・・勘案する義務があります。
子供が生まれた!今回の廃液槽はパーっと豪勢に純金で作ろう!わっはっは
          ・・・と、自分勝手にやるわけにはいきません・・・

        防蝕設計の最後の最後は価値判断です

 だから・・論理的普遍的マニュアルは絶対作れない・・・という理屈です。


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