恐るべし、プロの技!


その1

(ウチと比べれば、はるかに)大手の防蝕会社の東京支店長から、お仕事の電話

『あのさー、オタク、ウイスキーやビールのタンク、やらへんの?
(生粋の大阪人なのに、多少東京化している)
この仕事、○○が独占しとるんよ。エポキシでやっとるらしんやけどな。くやしいけど、ウチの技術の連中、アルコールにもつエポキシやゆうても、よう作らへん。
お宅、エポキシ強いやろ。それで、どうかなおもて。』

『ウーン、まぁ、アルコールそのものは、どってことないんですけど・・・・』

と、その時、頭をよぎったのは、あるタンクメーカーの人から聞いた、ゾッとするお話。

ウイスキーのタンク、作ったらしいんです。
・・・完成してきれいに水洗いして、今度は、トモ洗いといって、ウイスキーで洗い・・・そして、ウイスキーを貯めて、それをテイスターが味見するらしいです。
その結果・・・『ゴム臭がする!』
の、凍りつく一言。
どうやら、底板を溶接するとき、職人が間違って、地下タビで歩いた、のが原因・・ということだったそうです。
そこで、ウイスキーを抜き、皆で底板を徹底的に水洗い、アルコール洗いして、再検査・・・が、またしても、NO!ゴム臭が抜けてない!・・・

結局、底板を全部取り替えて、やっとOKが、出たとか・・・
なんという連中か テイスターというのは!!!!

・・・結局、おことわりしました。そのお話。

そんな、嗅覚から逃げるなんて事、最低限、特注の超精製樹脂でも使わない限り、無理です。
(我々の嗅覚程度では、予備試験も不可能)



その2

うちのポリオレフィン用ホットメルト接着剤とクロロプレンゴムを、背中合わせに合体させたシートの製造を、あるゴム引布メーカーさんにお願いしました。
全長、何十メートルという塗布乾燥機で、一気に作っていきます。
機械の力は、すごいもんです。
その、試行錯誤や、打ち合わせを重ねていたときのお話。

目の前に、並べられた多数のゴム引布サンプルを前に、コーヒーを頂きながら、先方の担当の方達の雑談を聞いていると、

『これ、○○がつくったんだろ?』
『うん。そう。』

・・・で、根が野次馬の当方の耳は、ピクッ
           『・・・××さん、それって、機械で作るんでしょ?
             それで誰が作ったか分かるんですか?』
『ああ、分かりますよ。』(と、言い終わらないうちに、別の担当者が・・・)
『ア、オレも、分かるよ。』
『そんなん誰だって分かるさ。これが、○○、これが、△△これが、・・・』
あとの、二人は、ウンウン、そうだ!と、うなずいています。
ちなみに私には、どれも、寸分違わぬ同じものに見えます。
さすが、大会社、品質管理は徹底している!と感心してた くらいですから・・・
それを、全部見分け、作った人間まで当てるなんて、・・・



その3

あるところが、うちのホットメルト接着剤を製品に組み込んでくれました。
その打ち合わせに行ったときのお話。

我々のライニングは、普通oで表示する世界、しかもその精度たるや、公称、2oの厚みと言ったって、1oのところや、1pのところまでできるのは常識です。
ところが、業種の違う こことの打ち合わせは、カルチャーショックの連続。
品質管理の次元が違う! 別世界に足を踏み入れた気分にさせられました。
言ってる数字もいきなり、ミクロンから入ってきます。 1/1000o。我々とは、3ケタ違う。誤差だって、2倍、3倍当たり前の世界から、いきなり、コンマ何%などという話に・・・
すぐには、脳が ついて行けない!・・・つい、こちらの世界の常識で、

ホントに『誤差何%なんて正確さで、塗れるもんなんですか?』
と、オマヌケな質問・・・
とたんに、あちらの世界の住人の目がギラッと光り、眉間にしわが・・・
(そんな、気がした。)(が・・もしかしたら・・)  誤差何%などと、粗雑極まる無神経な暴言・・こんな雑な奴等の製品使って、大丈夫やろか?・・と不安になった為かも知れません。


その4

白黒決着をつける・・・などと、白黒というのは反対の言葉と思われています。
けれど、白黒はグレーでつながった連続体であり、判別や調整が最も難しい、調色屋泣かせの色だそうです。 同感です。



グレーという色指定で、タンク内を仕上げて、薄暗い光で見ると、どんなグレーも白にしか見えません。グレーと気付くのは、もっと白いグレーや、白を持ってきて横に並べたときだけ。(絶対音感に対応した絶対色感というのがあるかどうかはしりませんが・・・)

我々が、白黒を 対比で判別している証拠です。

打ちのめされた 記憶があります。
インスペクターの仕事を やった時、もうお亡くなりになった方ですが、現場で 顔見知りの サンドブラストの会社の社長と、お会いしました。 もちろん、当時は バリバリの現役職人。 で、その現場も社長自らがブラスト・・・
何せベテランです。 仕事も早い。
・・・その後、私が入って検査。・・・?!?!?!・・・

『どうですか?これでいいでしょうか?』・・と社長
『・・・』・・と私メ

分からないんです。・・・良いのか、悪いのか。・・・
ブラスト検査というのは、ブラスト基準片というサンプルをタンクに持ち込み、それと比較して判定するやり方もありますが、普通は、そんなことしません。
直接、目で見て判定します。
普通の職人がやれば、ムラがでます。そのムラの具合で全体のグレードが判別できるんです。 マンホールから入る時点で、おおよその予想はつきます。
その状態を、頭にインプットし、だんだん薄暗い内部に移っていきます。 
つまり、ムラを手がかりに、相対比較を連続させるわけです。
しかし、この時は、立ち往生しました。 
対比すべきムラがないんです。 まさに、白いのか黒いのか判別不能・・・ 
相手の実力の方が二枚も三枚も上手でした。

よって“判断放棄!”『・・・結構です。次の工程に移ってください』

と、言うしかありません。今までの社長の仕事 知ってますから、それを 拠所にしましたが、これがもし、面識のない人だったら・・・
インスペクターとしては失格です。

真のプロは、怖い。



その5

昔々、とある古い し尿処理場の コンクリート製 半地下槽群。
腐蝕で、ボロボロになり、壁から汚水が漏れ出し、付近の住民から“汚い”“臭い”と苦情が出てました。
ある エンジニアリング会社が、FRPの板を槽内に持ち込んで アンカー止めしてつなぐという、少し変わったやり方のルースライニングで、それを修理しました。
水を入れて、漏れが止・・・まらなかったんですね。
再修理・・・止まらず。・・・また修理。・・・止まらず・・・で、とうとうギブアップして、SOS。・・ で
・・・代わって、我々が出向きました。
救急隊のカントクは、バリバリ(偏屈な)職人気質の、人使いの荒い、ジ様
我々 生意気盛りの 若造供を 引き連れての 出張です。

前の連中が、一ヶ月かかってギブアップした物件ですから、もちろん 我々だって、簡単には、直せません。
直せたと思って、水を入れたら、またまた ポタポタと漏れてくるんですね。
その繰り返し。 水といったって、雲古(開高 健さんの本から拝借)の水ですからね。 トイレットペーパーもたくさん混ざってるやつ。
最初は、“ウワァ、この中入るんか?・・・”などとゼイタク言ってましたけど連日、朝から晩まで、FRPをサンダ−掛けし、グラスファイバーが、体中に刺さってチクチクして、夜も寝られず、人使いの荒いジ様に、休む間もなくコキ使われて、疲労が溜まり、半ば やけくそ状態になってくると、座った足元を、うじ虫の団体が お散歩してても、平気で弁当を食べれるようになるんですね。 もう、サトリの境地。

最終的には、原因を見つけて直せたんですが、
途中、その雲古水を入れてテストし、抜いた後、次の工程に移るため、FRPライニングの裏に大量に溜まった水を、きれいに抜かないといけません。
FRPに穴をあけたり、ウエスで拭いたり。・・・(やけくそモードですから、当然素手です。 服が汚れようが何が汚れようが、お構いなし。)
しかし、細部にどうしても抜けないところがあります。 あけた穴や隙間から、ウエスを細くして突っ込んで、水をしみ込ませてひっぱり出す。・・・などと、能率の悪いことをやっていたら、 
 『ン?』  背後に人の気配。
 同時に、無駄のない簡潔なお言葉
   『どけっ!』
『ン?』手に何かもっとる。『ン?』ストローか。『アッ!』穴に突っ込んだ。
何するつもりだ?? と、詮索する間もなく、ストローを咥えたジさまは、“チューチュー”と吸い始めたではないか・・・。
『ゲッ!』と立ちすくむ若造。
吸っては、“ペッ!”吸っては、“ペッ!”と吐き出し、あっという間に、雲古水を吸い尽くした ジ様は、フリーズしている若造の手からウエスをひったくると、口を拭って戻し、何事も無かったかのように無言で立ち去っていった。

以後、若造は、“三歩下がって師の影を踏まず”モードに転換・・



その6

海外の、石油会社に出向していたとき、・・・

上司が一ヶ月の休暇を取る事になりました。 
その間、溶接の検査を 代わりにやれ、という命令。

『アノ〜、鉄の検査なんて、全然知らないんですけど・・・できません。』
『やり方は、知ってる?』
『まぁ、原理くらいは・・・お勉強だけですけど・・・。』
『それで、十分!じゃぁ、これから教えるから。 
何、簡単カンタン。 まず、X線検査ね。』
と、撮影済フィルムを山のように持ち出してきました。それを、目の前に両手で光にかざしながら、10コマを一秒ほどの猛スピードで、チェックしていきます。
『エ゛〜!』 その時点で 当方の頭はパニック状態。(ムリだ!そんなの!)
・・・と、あるところでピタッと手が止まりました。 『あった!』とこちらに見せます。
『ホラホラ、これが、アンダーカットね。
これが、溶け込み不良。分かる?』
『?????』
正常な物とダメな物、・・・どんなに見ても違いが分かりません
『ホラ、ホラ、ホラァ・・・ココッ!ココッ!よく見て!ハッキリ違うでしょ!』
(ハッキリ同じに見えますけど・・・・・・・・・・・)

・・・二時間後・・・
無能なボンクラ相手に、虚しい努力を続けた上司は、ガックリ肩を落として出ていかれました。

それにしても、あんな、分からんものをあんなスピードで。・・・
信じられん!人間技じゃない!


〜何ヶ月か後〜
今度は、その上司が、私の検査を 手伝ってくれる事になりました。
私が、日本に帰っている間の 代役を買って出てくれ、そのトレーニングをやる!
という申し入れです。
今度は、私が紙とエンピツで 基礎講義をしました。(何せ、頭の切れる方ですから、アッという間に概略は理解)
次いで、現場で一緒に歩いて、
『これが、エアホール、ここは浮いています。
あの辺は多分、膜厚不足・・・計ってみましょう。
この当たりは、含浸不良、・・・ピンホールが出るはず。』
などと、検査法、を丸一日、実物トレーニング。

部屋に帰ってきて・・・

ダァメダァ〜!オレ、分かんない。
あなた、僕に見えないものが見えてる みたいだね。
代理ムリだわ。 僕には・・・』

と、この前、私が感じた絶望感を、味わっていた らしいのです。

仕事と言うのは、何でも そんなものなのかも知れません。


その7

西の方の、と、ある石油精製工場の石油タンク内をライニングした時

サンドブラストを地元の業者さんにお願いしました。
皆さん、黙々と真面目にイイ仕事をしてくれました。感謝です。

忙しかったので、ブラストの期間中だけ、友人に臨時の現場監督を頼んでいました。

その間・・元請から、・・「・・さっきさー・・“おんどりゃー なめとんのか!おう、社長出せ!○×○×・・”・・とかと、知らない人から、えらい剣幕でガラの悪い電話が掛ってきたんやけど・・現場で何かあったん?」・・という問合せ。
「え?・・分りません。すぐ確認してご連絡します。」・・と一応切って、現場の友人に電話・・
「・・ということなんやけど・・何かあったん?」「イヤ・・マア・・別に・・大した事じゃ無いよ・・」「言いなよ。ハッキリ・・」「この前、お前さん駅まで送った帰りに、パチンコ屋の駐車場で車Uターンさせた時、看板の回転灯に接触してさ、・・マ・・ちょっと壊れちゃったんだ・・番頭みたいなヤツが出てきてぎゃーぎゃーユーとったけど、俺も現場に戻らなきゃいかんしサ・・名詞渡して帰って・・そのまま忘れとった・・」(^^)「なんだ、そんな事か・・あんなもん、そこらへんの電気屋で千円もだしゃ売っとるやろ・・さっさと片付けなよ・・何なら俺、明日行こか?」「いいよ来なくて・・」「でもなー・・何かえらい騒いどるみたいやから・・」「いいったら!・・来なくていい!・・俺がやるから・・」「どうやって?・・」「やるってゆうとるやろ・・」「そう・・じゃ、まあ、・・・・だいぶ怒っとるみたいやで・・」「わかったわかった」

・・で・・2日後・・連絡が来ないので・・電話・・「アレどうなったん?」「ああ、アレ・・終ったよ」
「直してやったん?」「イヤ・・」「イヤって・・どうしたん?」「もう、済んだって・・」・・どうも説明したく無い様子なので・・それ以上は追求しないで、元請には適当な事を言って誤魔化しておきました。

             ・・で・・後日・・一緒に酒飲んだ時、問い詰めたら・・
 電話のやりとりを横で聞いていたブラスト屋の親方が・・「何あったん?」・・と訊くもんで・・説明したら・・「よっしゃ、ワシにまかしとけ・・」・・と、頼もしい一言・・友人は、てっきり、“地元の人間同士なんで、きっと顔見知りなんだろうな・・幼馴染かなんかで・・ゲンちゃんごめんな・・俺の顔に免じて許してチョウダイ・・てなこと・・言ってくれるんだろうな・・”・・と思っていたそうです。

・・で・・一緒にそのパチンコ屋に行く途中・・親方が、「菓子折持っていこか・・」の一言・・
 東京人の例にもれぬ見栄っ張りの友人が、一番高いのを選びかけたら・・「いらんいらん!そんなん・・そこのソレでええ・・おお、ソレソレ」・・と・・¥500の一番貧相なヤツを指定し、「それとソフトクリームな・・それは高い方のヤツ・・」「へ?ソフトくりーむ?」「ワシが食うのっ」「ほな行こか・・ペロペロ」・・・とやってきましたパチンコ屋・・
・・すぐにアノ番頭がアッおんどれー!なめくさって・・」・・と駆け寄ってきます・・
突然ですが、ここで、手短に友人の紹介をしておきます。
若い警官に「横断歩道近辺に人が居るのに一時停止しなかった・・」と切符を切られました・・
XXX ○○○・・のやり取りの後・・「ヨーシ分った。法律と言うんなら従おう。・・し!・・法律には万人平等という大原則があるぜ!・・俺をパクるんなら、同じ事をやってる全員をパクれ!見ろ!俺がここに立っとるのに、あのトラックも止まらんやないか!捕まえろ!アッ!あのタクシーも捕まえろ!やらんかコラっ!お前がやらんなら俺がやってやる!コラーっそこのダンプ止まれー!そこの乗用車止まれー!」・・と・・ボランティア警察をやってる間に・・本物の警官はコソコソと退散しかけていた・・「まてー!逃げるんか貴様!」・・と追撃・・キ印系みたいな男に追われた警官は駐在所の奥の部屋に逃げ込んで鍵をかけてしまった・・「出てこい!コノやロー!・・」とドアを蹴っている所に年配の警官登場・・「どうなさったんですか?・・」「いや、コイツがね・・・・・」「分りました・・ま、取敢えず今日はお引取り下さい・・」「馬鹿はチャンと教育しとけよ!・・」・・と説教して退散・・そういうヤツです。
機動隊と石合戦やってた関係で、ケイカンには敵愾心持ってるヤツです。
夜毎、新宿を仲間と散歩・・肩を怒らせて歩いているチンピラを見つけたら・・適度な“ガンとばし”・・すると必ず “おう、てめえ俺にガン付けやがったな!”・・と凄んでくるので⇒適度に“キャー怖い怯えたふり”をして、適度な速度で逃げる⇒追いかけてくる・・暗い路地裏にきたら⇒豹変して、ボコボコに袋叩きにする・・という陰険な悪ふざけをやっていたようで・・ そういうヤツです。

・・・というヤツなので・・番頭が凄んでも、効果は無かったと推定されます。
・・加えて・・主役の親方が、ソフトクリームをペロペロ舐めながら・・
・・「おう、店長呼べ・・」と・・ドスの効いたセリフ・・
「えっ?・・ゲンちゃんごめんな・・と・・言ってくれるんじゃじゃないのか・・?」・・と予想外の展開にうろたえる友人・・よー考えたら・・こりゃ殴り込みにしか見えん・・

テキの番頭も、そう思ったようで・・「まっとれ!おんどれら・・」・・と・・応援部隊を呼びに、二階に駆け上がって行きました。

すぐさまドドドドドッと巨大な足音と共に店長らしき人物が血相変えて駆け下りてきます・・

 イカン・・こりゃ乱闘だ・・と・・思わず、武器になりそうな物を探して周囲を見回す友人・・
 ・・と・・駆け寄る途中で・・・狼狽した表情に変わり、棒立ちになる店長・・・・「???」と状況が理解出来ぬ友人・・・「・こ・・・」・・と・・何か言いかける店長の鼻先へ、「ハイこれ・・ペロペロ・・と・・貧相な菓子折をぶら下げる親方・・オロオロと受け取る店長・・「あの〜デンキのことやけどな〜・・ペロペロ「あっそれはもうチャンと直して頂いてますんで・・」・・「へ?・・」・・「なおってまへんでっ!店長!」・・と息巻く番頭を、「だまっとれ!お前は!・・と鬼の形相で一喝し、こっちに振り向いた瞬間に、大魔神みたいに愛想笑い顔に戻る店長・・「イヤもうきれいに直してもらってますので・・ハイ」・・「そう・・迷惑かけたな・・ほな・・ペロペロイエ・・ご苦労様デス・・」・・「かえろ・・」「え???」「もう終った・・・帰ろ・・ペロペロ・・

        ・・・職人さんたちは、堅気の衆でした・・
・・ただ・・昔は・・皆さん、別の世界にいたらしく・・ (どんなに暑くても、長袖の作業服は脱がない・・という気配りをなさっていましたが・・)背中や腕に好みの絵を描いていました・・
  その方達を纏めている親方も・・当然、それなりの・・プロ・・という事だったようです・・


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