壊れにくい接着物を作るためにはどうするか

誤った思い込みがあると、“接着”というのは、訳の分らぬオカルト現象になってしまいます。迷路に迷い込まぬよう、次の二点だけはきちんと理解してください。


@接着と言う現象は、接着剤と下地の“相互作用”です。

(接着剤単独の機能や性能ではありません。)

A一般に“接着力”として表示される測定値は、厳密に言えば、
“接着力”ではなく、耐破壊力とでも呼ぶべきものであり、
通常の接着の目的も、接着力ではなく耐破壊力です



@について、

“接着”現象は、ケースバイケースで、イオン結合、水素結合、ファンデルワールス力、共有結合、アンカー結合、等が組み合わさったものですが、これらはどれも全て、接着剤と被着体表面の相互作用ですから、全体としても相互作用になるわけです。

相互作用の仕方ば接着剤被着体組み合わせで変ります。

例えば、を強力に接着する“強力接着剤”が、必ずしもアルミを接着できるわけではなく、アルミ用が、に着くとは限らないのは、組み合わせで相互作用が変るからです。

そしてその他にも、後述する“いろいろな事”が、違う形で相互作用を変化させます。
    良い接着のためには、それらに注意を払わないといけません。

Aについて、

         “接着力といわれるものの実体はなにか?”

接着試験は、定められた形状の試験片を、定められた形に接着し、定められた方法で引っ張って破断させ、破断した時の力を“接着力”として表示します
引っ張る方法は、次の三種類のどれかです。



    テンシル         ピール(90度or180度)       シア
(単位)kgf/cm2           kg/cm or in'           kgf/cm2


一般的には、シアが最も大きな数字が出ます。次いでテンシル、その次がピールです。
普通のエポキシ接着剤なら、大よそ100:10:1くらいの数字の違いになります。

真の意味の接着力は同じはずなのに、なぜ測定法によって数値が異なるのか

それは、これらの方法で測定しているのが、“真の意味の接着力”ではなく、
“一定の破壊方法に対する抵抗力”だからです。

この“耐破壊力”とでもいうべきものは、この試験法の例のように、力の方向によって変わるだけでなく、接合構造、被着体の形状、環境条件等、様々な要素によって、変わりますので、 壊れにくくするには、これらの要素を考慮しないといけません。

(以上、くどいようですが、一般に“接着力”表示される数字は、曲げ強度や熱膨張率のような接着剤固有の“物性値”ではありません。
それどころか、厳密には“接着している力”ですらありません。
                 つまり接着設計をする場合には、
   接着力と耐破壊力は、はっきり、区別しないといけません
       “耐破壊力”は次のような要素によって変ります。

 1力のかかり方と接着剤の硬さの関係

●シア
シアの破断に強いのは、固い接着剤です
エポキシ樹脂にシリカ粉を混ぜると、その量に応じて硬化物は固くなります。
この接着物をシア破断させると、シリカの充填量が増すに従って“耐破壊力”が上がる傾向があります。
つまり、シアに強くしたければ固くするというのが一つの“手”です。
(ただし、非着体が応力で大きく変形するような場合は、時として逆効果になります。)

●ピール
ピールの場合は、固いものほど弱くなります。
というより、固いものはひとたまりもない、という感じです。
この方式に強いのは、ゴム弾性を有する接着剤であり、かつ接着層が厚い方が大きな数字になるという一般則があります。

●テンシル
テンシルの数値と接着剤の硬さには、前二者ほど明確な関連性はありません。

どの方式であれ、力をかけるスピードによって“耐破壊力”は変わります。
ゆっくり じっくりとかかるストレスが一番厳しい、と覚えておいて下さい。)

このように、耐破壊力はいろんな要素によって変わるので、(あたかも接着力が接着剤だけで決まるかのごとき)“強力接着剤”などという概念を持つのは、間違いの元です

(強力な接着は可能ですが、それは強力な接着剤だから、そうなるのではなく、接着剤、被着体表面、接合デザインの組み合わせが適合したときにそうなるのです。)


 2被着体の形状




 A




 



 


例えば、接着部の断面を(A)→(B)→(C)と変化させれば、順に“耐破壊力”が大きくなります。
“破断”は、たいていどこか一ヶ所に亀裂が発生し、そこが起点となって一気に全体に拡がるという形になりますので、そういう“起点”が出来にくい構造にすれば破断しにくくなります。 上図のBやCはそのための工夫です。
この様な“破壊し難いデザイン”接着ハンドブックやその他の接着マニュアル本に沢山載っていますので、それらを参考にして下さい。(なぜ破壊し難いのか も、良く理解してから、応用してください。)


 3温度

温度及び温度変化は、いろいろな形で“接着破壊”や“接着強化”に関与します。

高い温度は接着剤を軟化させます。
そうすると、1)で説明したような理由により、耐破壊力は良くなったり、悪くなったりします。ただし、常温硬化エポキシ接着剤等では、高温を経由すると架橋反応が進み、結果として、より固くなるという現象がありますので、経時変化という視点でみると、現象は多少複雑になります。
温度によって、接着剤が短期的、長期的に物性変化をおこすということは、常にあることです。(それを予測することは、必ずしも不可能ではありません。)

温度の変化によって接着剤も被着体も伸び縮みしますが、接着で一体化すると、両者別々の伸び縮みは出来ません。
その結果、接着界面には、両者の熱膨張率の差に比例したストレスが発生します。
それは、接着力を低下させ、接着破壊の起点を作る可能性を増大させます。
また、急激な温度変化は、いびつな伸び縮みを発生させるため、思わぬところに破壊の起点を生じることがあります。

これらは、熱膨張率(の差)という視点でおおまかな予測ができます。 
対策としては、接着剤の弾性率を下げるとか、充填材を工夫して両者の膨張率を近づけるとか、接合デザインを工夫するといったことが有効です。。


 4)化学的な環境条件

環境物質の中には、接着に影響を及ぼすものがあり、それによって“耐破壊力”が経時変化することがあります。
例えば、普通のエポキシ接着剤は、ガラスを接着することができます。
しかし、その接着物を水につけて放置すると、接着界面に水が浸入し、接着力が徐々に低下していく、ということがおこります。(水と接着:参照)
(この現象には、前述の界面ストレスや温度等も関与します。)
また、例えば、鉄の表面にビニールフィルムを貼った場合、フィルムや接着剤を透過してくる水や酸素によって鉄が錆びて、剥がれることがあります。
接着部が溶剤に浸かると、それによって接着剤が膨潤して、剥がれることがあります。

このように、様々な化学物質が接着剤、被着体表面、両者の接着界面に対し、いろいろな変化を生じさせ、経時的に“耐破壊力”を変化させます。

際限が無いので、接着力を左右したり経時変化させる事柄の紹介はこれくらいにしておきます。

まとめ

接着力”といわれるものの実体は、“耐破壊力”であり、“耐久性のある接着”というものの実体は、対破壊力が大きく、かつ“それが継続する”接着構造の事です。
(接着剤の接着力そのものは、耐破壊力を構成する要素の One of Themでしかありません。)
上記の様な諸要素を勘案し、上手く組み合わせることによって初めて、耐破壊力が大きく、かつ“それが継続する”接着構造を作る事が出来ます。

        つまりそれが壊れにくい接着物を作る秘訣です




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接着の耐久性を変化させる事柄