剥れ と界面応力

(緒言)
接着”がいろいろな現象の関与によって生じるように、“剥れ”もいろいろな現象が関与して生じます。

その剥れを起こす要因の中でもっともストレートに効くのが“接着界面にかかる物理的力”・・・つまり界面応力の大小です。

ライニングの上に何かを接着して、物をぶら下げたり、引っ張ったりするような構造を作ってはいけない。
荷重をライニング面で支える構造を作ってはいけない。
等の、業界常識は、経験から生まれたものですが、“無用な界面応力をかけるな”の意です。

  しかし、どうしても避けられない、あるいは避けにくい、根元的な界面応力も存在します。

             以下はその発生源とメカニズムの解説です。


          1、熱膨張によって発生する界面応力

樹脂コンクリートは熱膨張率が異なりますが、コンクリート表面に接着ライニングされた樹脂は、強制的にコンクリートと同一の伸び縮みをさせられます。
その時、両者の界面(コンクリートと樹脂の境界面)には、樹脂を強制的に伸び縮みさせるだけの界面応力が生じているハズです。

それを実測する方法はありませんが、計算で推定することはできます。

おおよそ どのくらいのレベルか 見当をつけるため、例として不飽和ポリエステルの1cm角のサイコロを コンクリート表面に30℃で接着し、それを-10℃まで冷やすと どうなるか、計算してみます。
(不飽和ポリエステルの熱膨張係数としてアバウト8×10-5/℃
コンクリートのそれとして9×10-6/℃というデータを使います。)

温度が40℃下がるとコンクリートは1cm当たり40×9×10-6/℃=3.6×10-4cm縮みます。
一方、不飽和ポリエステルは本来なら、40×8×10-5/℃=3.2×10-3cm縮むはずだったものがコンクリートと同じ3.6×10-4cmしか縮めないので、残り(3.2×10-33.6×10-4=2.84×10-3)分は 無理矢理引き伸ばされる形になります。それに弾性率(ヤング率)をかけると “引き伸ばしに要する力” が算出されます。
不飽和ポリエステルの弾性率として400kg/mm2(=40000kg/kg2)というデータを使うと
2.84×10-3×40000kg=113.6kgとなります。
つまり、コンクリート表面には、面に沿って1cm2当たり100kg前後のテンションがかかる計算です。
これは、1cmの厚さでの計算ですから、厚さ1mmのライニングなら10kg、2mmなら20kgということになります。

以上をまとめると、界面応力は熱膨張率の差×温度差×弾性率×膜厚という形で発生し、
1mm厚さのライニングなら夏⇔冬で10kg/cm2程度の大きさになる・・・という見当です。

鋼材に接着ライニングする場合は、鋼材の膨張率とコンクリートのそれは ほぼ同じなので、似たような結果になります。

[ライニングする材料による違いは?]・・・当然あります。

例えば、不飽和ポリエステルにグラスファイバーを混ぜてFRPにすれば、熱膨張率は下がります。(界面応力を下げる方向に働きます。)
しかし、弾性率も大きくなるのでその効果はある程度相殺されます。

一般的に、樹脂を硬くするほど熱膨張率が小さくなりますが、一方で弾性率が上がってそれを打ち消すため、膨張率×弾性率の値はたいていのライニング材で似たような数字になります。(ただし、物によって数倍程度の差は十分あり得ます。)

          10kg/cm2という界面応力が何を起すか?]

引張強度がこの何千倍もある鋼材にとっては、この程度のストレスは無視できます
だから、もし、鋼材に被覆した樹脂ライニングが界面応力で破断するとすれば、材破するのは 鋼材ではなく、樹脂です。
しかし、コンクリートの表面にとっては この数字は臨界値レベルなので、一つ間違えばコンクリート表面が破断します。
つまり、コンクリートの防蝕設計で“ライニングの膜厚を大きくする”ということは、環境遮断性を大きくする というメリットをもたらす一方でコンクリート表面材破の危険性を高める という デメリットをもたらします

 ただし、界面応力が剥がれの大きな原因であるにしても、それが 原因の全てなのではなく、コンクリートの表面状態や 応力の局部的集中の仕方、(破断の起点ができやすいかどうか、)といった事も 影響します。
 接着とは何かの 「剥れ」とは何か? の項を参照してください。)

そういった問題が有る為“界面応力が大きくなると予想される防蝕ライニング”を行う時は、状況に合わせた リスク軽減処置が必要です。
 (方法の詳細は、企業秘密なのでお教え出来ません。悪しからず)


      2、硬化収縮によって発生する 界面応力

防蝕に使う 塗布型の樹脂は、施工時は 液体です。
そして、塗布された後、硬化反応の進行と共に
 (1)次第に増粘する⇒(2)流動しなくなるゲル化といいます)⇒(3)だんだん固くなっていく・・・という経過をたどります。
この間、体積は わずかながら収縮し続けます
(1)⇒(2)の液状段階では、いくら収縮しても 応力は生じませんが、ゲル化してからの収縮は、接着力 (と樹脂内部の架橋構造) によって押さえ込まれますので、結果として無理矢理 引き伸ばされた状態になり、界面応力が生じます。

このメカニズムにより、施工直後のライニングの接着界面には“始めから” “(温度が下がった時と同じ)ストレスが掛かった状態”ができます。
(施工後の温度変化に伴って生じる界面応力は、この分に上乗せされます。)

これが、硬化収縮によって生じる界面応力です。

樹脂内部の架橋構造によって押さえ込まれた分は、樹脂内部の残留応力(内部応力)という形になって、材料強度を低下させたり、硬化物を変形させたりします。)


      3、施工時の 施工面温度は 界面応力をどう変えるか

1、の不飽和ポリエステルのサイコロを使った試算では30℃で接着・・・という前提を使いましたが、これがもし70℃で接着したという前提だったらー10℃での界面応力は2倍になるし、
−10℃で接着したのならー10℃での界面応力はゼロです。

     このように“温度変化”を考える時の“起点”は施工時の温度**です。

厳密には、硬化収縮や“温度による弾性率と伸び率の変化”という要素が加わるので数値はズレますが、この要素だけで考えればこうなります。)
**正確に言えば、あとで説明する様にゲル化時の樹脂の温度) 

だから、10℃で施工したライニングと30℃で施工したライニングは、どの温度になっても、常に20℃分の界面応力の違いをもちます。


4、(樹脂の反応熱による)樹脂温度の上昇 による界面応力

樹脂は硬化反応で一定の熱量を放出します。それは、下地や空気中に逃げていきますが、逃げるより発生するほうが多いと樹脂の温度を上げます。

そのため、硬化が早い樹脂を一度に厚くライニングすると、単位面積、単位時間当たりの発熱量が増すので、より高温になり、その高温が硬化反応を促進するので(10℃上がると2倍になる・・というように指数関数的に効きますので、)ますます温度が上がります。
これは、樹脂温度を施工環境以上に押し上げるので、常温に下がった時の界面応力をその分だけ増やします。


  [閑話休題
上記の界面応力による、(私達の)失敗例を紹介します。

ある食品工場のタイル貼りの床に(土)(日)の二日間でFRPを被せる
・・・という工事をやりました。

当初、現状のタイルの上にFRPを覆せるという計画で着工したものの、下地処理の途中で、タイルを貼っている土台の床仕上げモルタル自体が根こそぎ浮き上がっており、そこに水や汚れが溜まっていることが判明しました。

そこで、急遽、それらを全部ハツリ取って、樹脂モルタルで埋め戻し、その上にFRPをライニングするという方針に変更しました。
(時間的に、「セメントモルタルを打設して硬化を待つ、」などという悠長なことはできませんので、やむをえません。)

全面のモルタルを除去してみると、平均10cmを超える深さになりました。

そこで、休日なのに無理を言って砂屋さんに硅砂を大至急で届けてもらい、突貫工事でレジモルを打設し、硬化を待って、すぐFRPを覆せるというやり方をしました。(一切おまかせで自由にやらせてくれる施主なので、予定変更には何の支障もありません。)

レジモルは、コテなどで押えきれる厚さじゃないので、土木屋さんの道路工事みたいに振動プレートで締め固め、最後をコテでなだらかに仕上げるというやり方で、一気に施行しました。

施行時のレジモルは、反応熱で 手で触ると熱いくらいに温度が上がっていました

・・・で、翌日

『床がエビ反ってるよ〜!』という電話で駆けつけてみると・・・ナンと・・・

 

 ←FRP
   ←レジモル
    ←セメントモルタル
 ←旧床


             ・・・・こうなっていました!!


これは、反応熱によって樹脂温度が大幅に上昇し、それに過大な膜厚という要素がプラスされて、常温に温度が下がるにつれて大きな界面応力が発生し、それによってコンクリート表面が引きちぎられた、というメカニズムです。

       翌週の日曜日にまた、修理に入るハメになりました。
            (どうやって直したかは企業秘密)


この失敗例のように、速硬化型のライニング材を厚塗りする場合や、材料を加熱して吹きつけるホットエアレス施工や 超速硬化性のRIMスプレー施工などでは 反応熱による さらなる樹脂温度上昇が伴いがちであり、それが大きな界面ストレスを発生させます


          5、加熱養生によってできる界面応力

低温で硬化反応が進まないとき、ジェットヒーターや赤外ランプなどを使って加温して、反応を進ませることを加熱養生といいます。

加熱するタイミングが ゲル化の 前か 後かによって、界面応力のでき方が全く変わります。

[理由]
ゲル化の時点で樹脂は接着面に固定されますので、ここから温度上昇すると界面応力が発生しますが、冷えると元に戻ります。
つまり、常温でゲル化したものを例えば100℃まで加熱しても、それによる界面応力はまた常温に戻れば消失します。

一方、ゲル化前に 100℃まで上げるのは、100℃で施工するのと同じです
つまり、常温に下がった時点で、その温度差分の界面応力が発生します。


常温で使うライニングの加熱養生は、常温でゲル化させた後にやるのが原則であり、 
そうする事によって、常温での界面応力を 小さくできます。 
 フアターキュアという言葉は そういう意味も内包します。
(だからこれを加熱養生と訳すのは問題があります。)


一方、高温域で使用するなら、高い温度でゲル化させる方が高温での界面応力を小さくできます。


                       [まとめ]
界面応力ができること自体は どうしようもないので、できるメカニズムを理解して、害を少なくするやり方を考えて下さい。
                        「キーワード」
            夏施工したライニングと、冬施工したそれは、別物です。



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