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防蝕ライニングの寿命予測は信用できるか?

“電子線マイクロアナライザー”とか言う測定機のデータを引用し、防蝕材Aへのイオン浸透深さは、(単位時間当たり)同Bのそれの半分である。よって、Aのライニングの耐用年数は、Bの2倍と予想される。・・・といった実験報告を(相変わらず)目にします。
耐蝕性の過剰品質が、寿命を延ばすかのような論調もよく見ます。
例えば・・ビニルエステルの耐蝕性は、ほぼすべての点でイソ系ポリエステルを上回っている。よって、大抵のケースで、イソ系より長い耐用年数をもっと予想される。・・・といった調子の寿命予測です。
本当でしょうか?
   (いろいろと関連した細かい問題はあるんですが) ・・・アバウト 嘘です。
98%の硫酸に耐える材料と40%に耐える材料を、20%の硫酸に浸けたらどうなるか?・・・差なんて出ません
ましてや海水に浸けたときには、耐硫酸のデータなんか、何の関係もありません
 
お勉強(1)で書いたように、防蝕ライニングの寿命とは、膜と下地の“一体化構造”の寿命のことであり、それは、耐蝕・防蝕・接着という3要素の複合的寿命のことですから、寿命を考えるなら、少なくとも3要素の全てを、セットで考える必要があります
そして、お勉強(2)や設計施工例や、ファンデーション#123によるコンクリート防蝕に記したように、現実の世界は、ライニング構造を壊したり、不完全にしたりする無数の潜在要因に満ちており、実際にはそれらによっても、多様な壊れ方をします。

現実には、それらこそが、最大の寿命要因です。
 
つまり、ライニングというのは、特定の、ある項目が良ければ壊れない、などというものではなく、必要要素のどれか一つが(限度を超えて)悪ければ、壊れるのです。
(何が必要な要素であるのかは、例えば磨耗性の環境なら耐摩耗性、温度勾配がきつい環境なら耐水蒸気拡散性、酸化性雰囲気なら耐酸化性、寒冷な施工環境なら材料の低温硬化性、湿潤な施工下地なら湿潤面接着性や水中硬化性といった具合に、ケースバイケースで個別的な様々なものが付け加わります。そういった部分に一般論は成立しません。
   お勉強2   防蝕設計いろはのい   設計の論理 壊れ難いライニング   参照
 
何かの数値が良いからといって、寿命が伸びるわけでは無い
という実例を御紹介します。
 
原油の国家備蓄タンクの底板は、石油タンクに対しては、当時ほとんど実績の無かった、ビニルエステル樹脂のフレークライニングという仕様で、防蝕されています。
選ばれた理由の一つが、この仕様を推した塗料メーカー連合が提出した、(FRPとフレークライニングを比較した)マイクロアナライザのデータです。
それまでの実績から、FRP仕様なら、少なくとも10年や20年は大丈夫という事が、分っていましたから、それより単位時間浸透深さが小さいフレーク仕様なら、少なくとも20年や40年は大丈夫のハズだ、という冒頭と同じ三段論法です。
(つまり、FRPの統計的寿命に、アナライザのデータによる予測を継ぎ足した訳です。
“本当にそうなる”という統計データや実証データが有ったわけではありません。
客側の技術担当者達は、この一見科学的な(尤もらしい?)寿命予測の説得力に、すっかり洗脳されてしまい、『いまだにFRPなん時代遅れの仕様を、使っている人たちがいる』などと口走る人が出る始末。
 
   ・・・で結局、塗料メーカー連合が圧勝して建設が始まりました。
そのうちの一つの基地で、何の因果か、弊社が検査業務(インスペクション)のお手伝いをする廻りあわせになり、建設初期の短期間ながら、発注側の一員として全資料と全防蝕工事を、じっくり見させていただいたわけです。
ちなみに、タンク建設は、もちろん日本を代表するタンクメーカー各社、防蝕工事の元請は、国内大手塗料メーカー各社、その下に全国区の大手塗装会社各社が入ってペアを組むというオールスターゲームみたいな形なので、みんなライバル心を燃やし、多分選り抜きのマゴ請け、ヒマゴ請けを引きつれ、真冬の青森県のヒドイ施工環境の中で、真面目にモクモクと仕事を進めていました。
(それだけは、証人になってもいいです。)
一流の材料に、一流の施工体制という役人好みの形式主義は、外見だけは完璧です。これなら40年どころか100年持つかもしれない。・・もちろんイヤミです。・・
建設中の原油備蓄基地
検査業務
      ・・・が、しかしそれから“1年”後・・・
現場の責任者から
『一部試験的に剥がしてみたら錆がでているものがある。』
と息せき切った電話がかかってきました。
予想外の事態に、困惑狼狽している様子が、電話口から伝わってきます。
どうしてだろうか?まだ、全然使ってないのに・・20年どころか2年も経ってないのに!・・と言うわけです。
 
しばらくして、今度は全く別のルートからの、他の基地を含めた、検査写真 (もちろん錆が出ているものだけ集めた、トホホな写真) を見る機会がありました。
何が悪かったのか、誰が悪かったのか、追跡調査するための資料ですから、もちろんマルヒ資料です。(だから、どこで見たかは言えません。)
・・・で何を調べていたか。・・・
       メーカー名や下請け名、その他諸々がズラッと克明に並べられていました。
   シラミつぶしに調べてホシを割り出してやる!という気迫は伝わってくるのですが・・

・・どうもあさっての方向を向いているようです。
その後、どうなったかは知りません。
たぶん、何も分らずどうもできなかったのでしょう。
原因は・・・・・地雷を踏んだのです
   (言葉の意味は、ファンデーション#123によるコンクリート構造物の防蝕の、(注)を読んでください。)
その視点で調べない限り、いくら材料や業者や錆の形態の統計を取ったって、何も分るはずがありません。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
真冬のキビシイ施工環境
例えば、低温の結露しやすい環境の中で、硬化遅延剤をギリギリまで効かせたスプレー式フレークライニングを行えば、(吸水・・つまり、第二の遅延剤・・の予期せぬ効果によって)キチンとした硬化が進まないことがある、ということや、各社各様のプライマーシステムが、同様の条件中で、どんな影響を受けるのか、どういう環境の中で、どういう施工管理を行っていたのか、等をこそ、調べなければ、いけなかったのです。
(もっとも、それらは本来、塗料メーカーや施工業者がやるべき仕事ですが、彼らは、フレークライニング材の取り扱いや、施工に関する経験が浅かったため、まともな管理システムが作れなかった、というのが真相でしょう。・・・たぶん)
言葉の目くらまし、超重防蝕塗装の項参照)
 
ともあれ、マイクロアナライザ選手、1ラウンドノックアウト負け。
(というより、耐蝕データと一緒に、どこかに消し飛んでしまいました。)
 
あんなに品質管理が厳しい車の寿命が 一台一台全部違うように・・・天気予測が データだけから理論的に導きだせないように、沢山の要因が複雑に相関する事象の未来予測は、簡単には出来ません。(出来るとすれば、確率的予測だけです。)
 
そういう予測を「たった一つのデータに基いて行い、その視点だけで材料や仕様の優劣を断定する」などというのは、あまりに無謀な、(はっきり言えば無知な素人考えです。
長持ちする防蝕ライニングの作り方  参照)
 
   追) ただ、そうは言っても、(天気予報と同じく)何かを根拠に何らかの寿命予測をせざるを得ないという浮世のしがらみがあるのも事実です。
公平に自分のことも書きましょう。
昔、クウェートの原油タンク群の底板防触ライニングをやったとき、契約仕様の一部変更を申し入れ、認められたものの、その新仕様の耐用年数を技術レポートに入れよ、と(向うの立場としては当然の)要求をされました。 そこで・・
それは、神様にしか分りません。インシアッラー(神のおぼしめしのままに)』と正直に書いたら、元請のプラントメーカーの責任者から 断固拒否されました。
「マズイよーコレ、やっとゴタゴタ収まったばかりなのに、これじゃ第二ラウンドの挑戦状だよ。怒るよ、連中、絶対。 俺嫌だよ、こんなん持っていくの。 イヤ、理屈は分るけどサ・・」
        「連中への説明は私がやります。」
   「ダメッ 絶対ダメッ 他の文章考えて。」
               「・・・・・・」
   「だめだからねー。」(と背中に追い討ち)
今、考えてみると、何でもいいから、もっともらしい理屈をつけて、30年とか50年とか、適当な数字を作ってしまうのが、周囲を丸く修める、大人の態度だったかなぁと反省しています。
最終的に そうしました。 だから、わたしはアナライザのデータで寿命予測する人を、非難する気にはなれません。 同じ穴のムジナですから。
 

・・ということで・・
・・余計なお節介とは思いますが・・
   『メーカーや、施工業者や、役所や、○○技術委員会や、学者や、数式や、
   難しそうな測定機や、専門用語等々の 尤もらしい 権威に対しても、
   (・・もちろん、騙すつもりも権威も無いけど、このホームページに対しても・・)
   多少の、「ホンマかいな?(^^)」 という疑いはお持ちなさいませ。』
・・ということを言いたいわけです・・

実際の防食ライニングの寿命は
 
(それが、どんなに“科学的理論”みたいな体裁を整えていようと、)
 
例えば、“単位時間あたりのイオン浸透深さ”などといった
何か一つの特定の数値だけで左右されるような単純なものではありません。
 

(それは、多分、何の寿命でも、同じでしょう。)
 
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